「次の異動で薬局長をお願いしたい」
そう言われて嬉しさを感じ引き受けた一方で、
「自分にできるだろうか…」という不安が頭をよぎった。
こんな経験された方いないでしょうか?
薬局長は現場の延長のように見えて、
実はまったく別の役割を求められるポジションです。
現場の仕事を覚えただけでは通用しない「マネジメント」という新しい視点が必要になります。
このシリーズでは初めて薬局長(管理薬剤師)になる方や、
経験が浅く不安を感じている方に向けて、
スムーズにスタートを切るための考え方と行動のヒントを全3回にわたってお届けします。
近い将来に薬局長を目指している方にも役立つ内容になっていますので、
ぜひ最後までお読みいただけると嬉しいです。
■筆者プロフィール
私は薬学部卒業後、GMS(総合スーパー)やドラッグストア、調剤薬局で勤務してきました。
これまでドラッグストア・調剤薬局あわせて8店舗の薬局長(管理薬剤師)を経験し、
その後は約10年間エリアマネージャーとして複数店舗を統括。
課長職も経験しています。
スタッフ側・管理者側の両方を見てきた立場から、
実際の現場で役立つマネジメントの基本を、
出来るだけわかりやすい言葉でお伝えしていきます。
部下と向き合うために薬局長が持つべき3つの心構え
※最初にこのシリーズを読み進めていただくうえで一点だけ補足させてください。
薬局の店舗責任者の呼び方は、
会社や職場によって「薬局長」や「管理薬剤師」など異なる場合があります。
厳密には違いがあるケースもありますが、
多くの場合は実質的に同じような役割を求められているのではないでしょうか。
そのためこのシリーズでは呼称を統一するために、
以後「薬局長」という言葉で表記していきます。
ご理解のうえお読みいただけますと幸いです。
なぜ「薬局長になったとき」に不安を感じるのか
薬局長に就任したとき多くの人が最初に感じるのは、
「自分にできるのか?」という漠然とした不安です。
これは決して珍しいことではなくむしろ自然な反応です。
なぜなら薬局長という役割はこれまでの「一スタッフ」としての仕事とは、
求められる視点が大きく異なるからです。
たとえばこれまでは自分の業務をしっかりこなすことが評価の対象でした。
しかし薬局長になると、
・店舗全体をどう動かすか
・人をどう育て、どう支えるか
というマネジメントの視点が必要になります。
これまで経験してきたスキルだけではカバーしきれない領域が一気に広がるため、
不安になるのは当然とも言えるでしょう。
さらに薬局長としての仕事には以下のような目に見えにくいプレッシャーもあります。
これはマニュアルにも書かれていないことが多く、
実際にその立場に立たないと気づきにくいものばかりです。
- 本部や上司からの業績や数値に対する責任
- 部下からの相談や不満への対応
- 店舗で起きたトラブルの最終的な責任を負うこと
これらのプレッシャーは日々の業務には直接表れにくいため、
「何をどうすればいいのか分からない」「気づかないうちに責任だけが増えている」
と感じやすくなります。
だからこそ薬局長になりたての今は、
「不安を感じている自分はダメだ」なんて考えなくて大丈夫です。
まだはっきりと見えていない薬局長の責任を果たそうとする心構えがあるからこそ、
不安を感じているのです。
これはあなたが薬局長にむいている何よりの証拠です。
薬局長としての素質があるからこその不安だと私は思います。
少しずつで大丈夫です。
このシリーズを通して仕事の視野を広げながら着実にスタートを切っていきましょう。
単なる現場の延長ではない「責任」の重さとは何か
薬局長になって初めて実感することのひとつに責任の重さがあります。
この責任は単に仕事の量が増えるということではありません。
これまでとは質の異なる責任が発生するという点が、
薬局長という立場の大きな特徴です。
たとえば現場スタッフとしての責任は、
「自分の担当業務を正確に丁寧にこなすこと」でした。
しかし薬局長になるとそれに加えて、
店舗全体の運営やスタッフの行動や売上やコンプライアンス違反なども、
自分の責任として扱われるようになります。
具体的には、次のような場面で責任を問われることがあります
- 部下が調剤過誤を起こしたとき、「なぜ防げなかったのか?」と問われる
- 店舗でクレームが発生したとき、薬局長が状況説明と謝罪に立つ
- レジ誤差や在庫ミスなどが続いた場合、改善策を考え、報告する義務がある
これらはすべて「自分が直接やったことではない」にも関わらず、
店舗の代表として説明責任を負う立場にあるからです。
また部下への指導や店舗方針に関しても、
「誰かが決めてくれる」立場ではなく、
自分が決めて自分が説明し実行まで責任を持つことが求められます。
つまり一社員として働いていたころの責任(自分に与えられた業務を全うする責任)から、
薬局長が負う全体を背負う責任へと変わることになるのです。
少し前の自分を思い出してください。
まだ仕事が未熟だったころの自分自身です。
あの頃わからないことがあったら誰かに聞いていたのではないでしょうか。
きっと頼れる上司や薬局長の方もいたはずです。
その人たちはあなたを一人前に育てる「責任」を持って、
そばにいてくれたのだと思います。
そして今、その役割があなたに巡ってきたのです。
困っている社員の手助けをする──
これも立派な責任の一つです。
小さな積み重ねで構いません。
最初から大きな責任を背負う必要はありません。
今の自分にできる範囲でいいんです。
「今持てる責任」をまずは全うしてみませんか?
薬局長になったら最初に覚えておくべき3つの考え
薬局長になったら「立派な上司にならなきゃ」「何でもできる存在でなければ」と、
自分のハードルを上げようとしていませんか。
正直私もそう考えていました。
でも実際には仕事は一人では完結しません。
自分一人で完璧を目指すよりも人との関係や姿勢を大切にすることで、
かえって頼りになる薬局長になれるものです。
ここでは、私が実際に経験を通して感じた
薬局長として最初に持っておくべき3つの考え方をご紹介します。
①自ら挨拶をする 距離を縮めるのは上司の役目
薬局長という肩書きがつくだけで部下は無意識に距離を取ることがあります。
「忙しそうだから話しかけづらい」「気を使ってしまう」
と感じているスタッフは意外と多いものです。
だからこそ自分から挨拶をする、声をかけるといった小さな行動がとても大事です。
挨拶はコミュニケーションのきっかけ。
日常的なやりとりの中で、
「話しかけやすい上司だな」と思ってもらえることが、
チーム全体の空気を変える第一歩になります。
②感謝を忘れない 「上司=偉い人」ではない
上司になるとつい「自分が指示を出す立場」「正しさを示さなければ」と思いがちです。
でも実際にはスタッフ一人ひとりの協力がなければ仕事は回りません。
チームとして中心にいる立場だからこそ、
スタッフを頼りにする場面はむしろ増えることでしょう。
感謝の気持ちを忘れず「ありがとう」の一言をかけてください。
忙しい中でも誰かの行動にきちんと目を向けて言葉にして伝えること。
それが信頼される上司になるための基本です。
薬局長は偉くなるのではなく、
支える立場になるという意識を忘れずにいたいものです。
③あなたは1番でなくていい|上司にも強みと弱みがあっていい
「薬局長なのにこんなこともできないなんて…」と、
自分を責めてしまっていませんか?
薬局長になったとて得手不得手があるのは当たり前のこと。
すべてが得意で完璧である必要はありません。
自分の強みを活かして、
苦手な部分は周囲に頼る柔軟さこそが上司に求められる力です。
人を頼ることは決して恥ずかしいことではありません。
「完璧な上司」ではなく「あなたらしい魅力ある上司」を目指すことで、
自然とまわりのスタッフもついてくるはずです。
どうでしょうか。
どれも特別なスキルではありませんよね。
これらを意識するかどうかで、
薬局の空気やチームの動きは確実に変わっていきます。
ぜひこの3つの考えを日々の中で大切にしてみてください。
薬局長としてのマネジメントで求められる4つの役割と仕事
薬局長という役職に就くとそれまでの現場担当者の感覚から一歩引いて、
チーム全体を俯瞰する視点が求められます。
英語で店長(店舗の責任者という意味)は「store manager」と呼ばれるように、
薬局長にはまさに監督(マネージャー)としての立場が必要になります。
スポーツで言えば選手としてプレーするのではなく、
チームの戦略を考え、ルールを守らせ、選手を育て、勝利に導く存在です。
つまり薬局長はみんなで成果を出すための環境を整える役割を担っているのです。
ここでは薬局長に求められる4つの基本的な役割についてご紹介します。

①決められたルールを守らせる|薬局運営の「土台」を保つ仕事
薬局には法令や社内ルールや調剤過誤防止策などさまざまなルールがあります。
そのすべてを現場に浸透させ日々確実に守らせることは、
薬局長にとって最も基本で重要な役割です。
ルールを守るのは当然と思いがちですが、
よくよく見ると守られていないルールがあったり、
本来のルールとは違う暗黙の了解があったり、
「前からこうだったから」と習慣になっているだけのケースもあります。
薬局長は正しく守られているかを定期的に見直し、
必要があれば指導する責任者です。
土台が揺らげばどんな戦術も意味を成しません。
監督として最初に整えるべきは、この「ルールを守る力」です。
②組織の目標を決める|チームに「進むべき方向」を示す
現場は日々の業務に追われがちですが、
だからこそ薬局長が「今期は何を目指すのか」「どう変化していくのか」
という方向性を明示することが大切です。
スポーツで言えば例えば「甲子園を目指す」とか、
「地区予選を突破する」といった目標決定にあたります。
目標を明確に示すことで今の組織に何が足りていないのか、
どうすれば目標を達成することが出来るのかが見えてきます。
つまり組織の成長へとつながるのです
部下は目指すべきゴールがわかると、安心して動けるようになるはずです。
③目標を達成させる|成果を出すための「マネジメント」
目標を掲げるだけでは意味がありません。
そこに向かってチームが進めるよう、
具体的な行動や仕組みを整えるのも薬局長の役割です。
- 適切な人員配置
- 業務フローの見直し
- スタッフの得意不得意を踏まえた役割分担
- こまめな声かけとフィードバック
こうした取り組みによって現場が動ける状態をつくることが、
監督としてのマネジメントです。
もちろんうまくいくことばかりではありません。
うまくいかなかったときは立て直しを図るのも薬局長の重要な仕事となるのです。
④部下を育てる|「勝てるチーム」にするための成長戦略
目の前の業務をこなすだけでなく、
「スタッフを育てる」という視点を持つことが薬局長にとって欠かせません。
なぜなら薬局(チーム)の力は人によって決まるからです。
- ミスが多い新人にどう教えるか
- 中堅スタッフのやる気をどう引き出すか
- 将来のリーダーをどう育てるか
育成には時間も手間もかかりますが、
長い目で見れば最も大きな成果になります。
監督が選手を信じてチャンスを与えるように、
薬局長もスタッフの成長を信じて関わることがチーム全体の力を底上げします。
薬局長のマネジメントとは戦術であり育成であり、
そして人を信じる力でもあるのです。
この4つの役割を頭に置きながら、
自分なりの監督スタイルを築いてください。
さて今回はここまでとなります。
次回は「部下と向き合う薬局長の3つの心構え」について、
現場経験に基づいたヒントをお届けします。
ぜひ引き続きご覧ください。