働き方の話

薬局長になったら知っておきたいマネジメントの基本とは~第2回~

薬局長としての仕事を任せられてふと感じることのひとつに、
「部下(スタッフ)とどう関わっていけばいいのか…」
という戸惑いがあるのではないでしょうか。

これまで同じ目線で働いていた相手と急に上司として接しなければならない。
そんな立場の変化にぎこちなさや距離を感じる場面もあるかもしれません。

人間関係がうまくいかないと職場に気まずい空気が流れたり、
ちょっとしたすれ違いがミスや不満につながったりと、
業務にも影響が出てきます。

この第2回では部下と向き合うときに薬局長が持っておきたい心構えと、
実際によくある悩みをどう乗り越えるかについて、
私の経験を交えてお伝えします。

私自身もこれまで8店舗で薬局長を経験し、
その後はエリアマネージャー課長として複数店舗を見てきました。
上司と部下、両方の立場を経験してきたからこそ、
現場で感じるリアルな悩みや迷いに共感しながら書いています。

部下と向き合うために薬局長が持つべき3つの心構え

「上司=偉い人」ではなく「現場を支える人」としての姿勢

第1回の記事でもお伝えしたように、
薬局長はチームをまとめる監督のような役割を担っています。
スポーツにおいて主役はあくまで選手たちであり、
監督はあくまでも裏方です。
現場で活躍するスタッフを「いかに支え、いかに活かすか」が、
薬局長に求められる視点になります。

たとえばスポーツの世界でも、
監督が自ら活躍して試合を決めるわけではありません。
監督の役割はチームが勝つために適切な指示を出し、
選手の特徴を活かし、時には厳しく姿勢を正しながら勝利へと導くことです。
選手たちが力を発揮しやすい環境を整えチームを前へ進める──
それが監督の大切な仕事です。

これは薬局というチームでもまったく同じです。
チームの目標(たとえば予算の達成、顧客満足の向上、業務改善など)を実現するために、
薬局長は支える役目に徹する必要があります。

だからこそ「自分が主役だ」と考えるのは私は少し違うと思うのです。
むしろ「スタッフが主役で自分はそれを支える縁の下の力持ちである」
という意識こそが大切なのです。

部下が安心して働きそれぞれの力を発揮できる環境をつくること。
それこそが薬局長にしかできない支えるリーダーとしての真の役割です。

社員が主役である以上、
薬局長は決して一番目立つ存在ではないかもしれません。
しかしあなたの存在は間違いなくチームに必要とされる存在になるはずです。

「プレイングマネージャー」という現実と向き合う

ここまで薬局長を監督として表現してきましたが、
実際の現場では
「選手兼監督(プレイングマネージャー)」
のような立場になることも少なくありません。

つまり自らが現場の最前線で業務をこなしながら、
同時にチームをまとめるという二重の役割を担うことになります。

例えば業務が立て込んでいる時には、
自ら先頭に立って手を動かし現場の一員として機能することもあるでしょう。
そうした柔軟さも現実的には大切です。

しかしプレイングマネージャーであったとしても忘れてはならないのが、
自分はチーム全体を見る立場=監督である
という根本の考え方です。
目の前の業務に追われすぎて、
チームの流れやスタッフの変化に目が届かなくなると、
本来の役割を果たすのが難しくなってしまいます。

だからこそ「自分も動くけれど、全体を俯瞰する視点を忘れない」──
この意識を持ち続けることが、
薬局長というポジションをうまく務めていくカギになるのではないでしょうか。

信頼されるために必要なのは「公平さ」と「説明力」

薬局長になったとき、大切なことの一つに「部下からの信頼」を得ることです。

仕事は1人ではなくチーム全体でするものです。
どれだけあなたが懸命で真面目に頑張っていても、
信頼がなければチーム(社員)はついてきてくれません。

その信頼を築くために欠かせないのが公平さと説明力です。

少し思い出してください。あなた自身もこんな場面に心当たりはありませんか。

  • 同じミスなのに、人によって注意の度合いが違う
  • 誰がどんな基準で評価されているか分からない
  • 方針が変わった理由がよくわからない

こうした不透明さを感じたとき、
その上司についていきたいと思えるでしょうか?
おそらく多くの人が「いいえ」と答えるはずです。

この感覚は誰でも同じです。
ちょっとしたモヤモヤだとしてもこれが積み重なると、
「上司に本音を言っても無駄」「何を考えているか分からない」
といった不信感につながってしまいます。

だからこそ薬局長は誰に対しても平等に接すること
そして判断や方針の背景をきちんと説明することが求められます。

発した言葉には実は思っている以上の力があります。
たとえ納得されない内容であっても、
「きちんと考えてくれた上での判断なんだな」
と受け入れてもらえることもあります。

また「特定のスタッフだけを贔屓している」と見られないように、
自分の立場や関係性に関係なくフラットな態度で接することも大切です。

意識してほしいのは薬局長は常に見られているということです。
ちょっとした言動の違いが、
スタッフのモチベーションや空気感に大きな影響を与えます。

信頼される上司とは「仕事ができる完璧な人」ではありません。
考えに一貫性があり誰にでも誠実に向き合う人だと私は思います。

部下との距離感に悩んだときの考え方

私が初めて薬局長になった頃の話です。
それまで仲良く働いていた同僚が、
なんとなく距離を置いているような感覚になりました。
私は今まで通り話したり仕事をしていたつもりでしたが、
どことなく離れていくようなそんな感覚です。

暫くはなぜなのか理解できませんでしたが、
ある時ふと気が付きました。
これまでは同じ立場で働くことが出来ましたが、
薬局長になることで私が同僚を評価する立場になったからだと。

多くの会社で人事考課を取り入れていると思いますが、
薬局長は部下の社員に対して考課を行う立場になるはずです。

部下の立場からすれば少しでもいい顔して評価を上げたいでしょうし、
下手な発言をして評価を下げたくないと感じるのは当たり前のこと。
つまりどうしても今まで通りの付き合いは難しくなってしまうのです。

正直なところ個人差はありますが、
役職が変われば必ず「距離感」は生まれるものだと私は感じています。
(もちろん、仕事上の距離の話です)
少し冷たく聞こえるかもしれませんが、
まずはその距離を「自然なもの」として受け止める心構えが必要です。

そのうえで以下のことに注意してほしいと私は考えます。
意識してほしいのは「信頼をどう得るのか」です。

  • 誰に対しても、態度と言葉遣いを一定に保つ
    → 職場ではだれに対しても接し方を変えないことが信頼につながる。
  • 雑談や声かけを大切にしつつ、仕事上の判断は公正に行う
    → フレンドリーでも仕事はキッチリ。何事も線引きが大切
  • 指導やフィードバックは「感情」ではなく「事実」をベースに
    → 怒るのではなく伝える。事実を基にして冷静で具体的な言葉を選ぶ。

少し厳しく感じるかもしれませんがある一定の距離感は受け入れてください。
そのうえで自分への信頼をどう構築していくのか、
これが出来れば徐々に距離感も感じにくくなると私は考えます。

あなたが薬局長になって果たしてうまくやっていけるのか?
と不安に感じているのと同時に、
同僚も「あの人が上司になってうまくやっていけるのかな?」
と不安に感じているものです。

不安を感じているのは実はあなただけではありません。
お互い様なのです。

だからこそ距離感を感じでつらい気持ちはわかりますが、
あなたから少しづつ距離感を詰めてあげてください。

これは長い時間がかかるかもしれません。
ですが相手も徐々に理解してくれるはずです。

あなたは優秀だからこそ薬局長に任命されたのです。
能力のない人間に役職を与えようと考える組織はありません。

焦らずゆっくりでいいので出来ることから始めて欲しいです。

薬局長にありがちな3つの悩みと乗り越えるためのヒント

「人が育たない」と感じるときの視点の変え方

薬局の運営には社員のスキルアップや成長は欠かせません。
ですが薬局長として現場を見ていると、
「なかなか人が育たない」と感じることが多々あります。

何度も同じ注意をしているのに改善されない、
主体性が感じられない、教えても身につかない……。
そんな時「この人にはもう無理かも」と思ってしまう瞬間があるかもしれません。

でもちょっと立ち止まって考えてみてください。
それは本当にその人の限界なのでしょうか?
それとも伝え方や育て方に偏りがあるだけなのかもしれません。

社員が育たないと感じた時は、
まず以下の3つの視点から見直してみることをおすすめします:

① 相手にどう伝わっているのかを確認する

教える側とすると「何を伝えたか」に視点が行きますが、
大事なのは相手に「どう伝わったのか」です。

どんなに正しいことを言ったとしてもそれが伝わっているかは別問題。

どう伝わったかを確認することで相手が何を理解しているか、
わからないことは何かが把握できます。

良く相手の話を聞いてください。
傾聴はとても大事な行動です。

② 勝手に期待値を上げすぎない

「これくらい出来るはず」と感じることありませんか。
気持ちはよくわかりますが、
もしかしたら勝手に期待値や理想を上げすぎているかもしれません。

基本的に教育は時間がかかります。
ましてや人の成長は様々です。
早く成長する社員もいれば晩成型の社員もいます。

あまり焦らず時間がかかるものだという認識を持ちましょう。

③ あなたの理想の上司を思い出してみる

これまでの出会いの中で、
「この人すごいな」「この人のようになりたい」
といった上司にあった経験ないでしょうか。

その上司はどんな行動をとっていましたか。
どんな接し方をしていたでしょうか。

参考になることが必ずあるはずです。
であればそれを真似してみたらどうでしょうか。
人の成長は他人を真似することから始まることもあります。

そして自分なりにアレンジして、
あなたらしいスタイルに育てていけばいいのではないでしょうか。

人が成長するには本人の行動が変わらない限りなかなか難しいのは事実です。
ですから人の成長にはどうしても時間が必要ですし、
一見成長していないように見えたとしても、
薬局長の立場として社員が成長するきっかけを与え続けることが大事だと思います。
今はまだ「育たない」ではなく「まだ育っていないだけ」なのかもしれませんよ。

相談されない上司にならないためにできること|薬局長にありがちな3つの悩みと向き合う

薬局長として働いていると、
日々の業務の中でさまざまな「悩み」に直面します。
その中でも特に多いのが以下の3つではないでしょうか。

① 人がなかなか育たない

前回のパートでも触れましたが、
「人が育たない」と感じるのは多くの薬局長が最初にぶつかる壁です。

人によっては
「部下がこちらの指示どおりに動いてくれない」
「結果を出してくれない」
と愚痴の一つも出したくなるでしょう・・・。
いずれにしても、
教育するという責任から逃れられないポジションであることに変わりはありません。

教育しても成果が出ない、同じ注意を何度も繰り返す……。
そんなときは「もう無理かも」と思ってしまうこともあるかもしれません。
でも実際には育っていないのではなく、
育ち方が見えにくいだけというケースも多くあります。

その背景には、
「部下から相談がない」「本音が見えない」
という別の問題が隠れているのかもしれません。

② 相談されない・話しかけてもらえない

ある日ふと、「最近スタッフとあまり話していないな」と気づくことがあります。
薬局内の雰囲気は悪くないのに、どこかぎこちない空気が流れている――
そんな静かな距離感に悩んだ経験はありませんか?

もし「相談されない上司」になってしまっていると感じるなら、
以下のような行動をしていないか振り返ってみてください。

  • 忙しさアピール(部下からは「忙しそうで話しかけづらい」と思われる)
  • 自分の仕事に夢中で会話をおろそかにしている(リアクションが少ない)
  • 自分のことでいっぱいで、相談を受けても十分に応じられていない

薬局長は相談される立場であると同時に、
相談しやすい空気をつくる責任者でもあります。
このあと具体的な工夫をご紹介します。

③ 孤独やプレッシャーを感じる

薬局長になると自分が最終判断を下す立場になります。
誰かに相談したくても、
「相談できる相手がいない」と感じる瞬間もあるでしょう。
2つ目の「相談されない悩み」にも通じていますが、
薬局長は孤独を感じやすい役割です。

こうした悩みを軽減するためにもチームとの信頼関係づくりがカギになります。
次にご紹介するのは相談される上司になるために意識しておきたい3つの工夫です。

相談される上司になるための3つの工夫

① 聞く姿勢を言動で示す

手を止めて目を見て話を聞く、うなずく、体の向きを相手に向ける――
これらは小さな行動ですが、
「この人には話してもいいんだ」という安心感を与えてくれます。
聞いてもらえる人という印象は無言の信頼を生み出すのです。

② 相談は「答える」より「共感する」

上司になると「正しい答えを出さなきゃ」と思いがちですが、
共感の言葉だけでも不安は和らぎます。

「そうだったんだね」「それは大変だったね」
こうした一言が、相談者の気持ちをほぐしてくれるのです。
無理に答えを出そうとせず「聞く・共感する」姿勢を大切にしましょう。

③ 上司のほうから話しかける

「何かあったら相談してね」と言葉で伝えるよりも、
上司の側から雑談という形で距離を縮める方が効果的です。
「最近どう?」「困ってることない?」といった一言が、
スタッフにとって「話しかけていい人」という印象につながります。

薬局長になると業務量も判断すべきことも増えていきます。
だからこそ、部下が安心して相談できる雰囲気づくりが欠かせません。

「この人なら話しても大丈夫」と思ってもらえるような、
日常的な気配りと接し方をぜひ意識してみてください。
そしてそれは人が育つ職場をつくる土台になり、
あなた自身の孤独も軽減してくれるはずです。

孤独やプレッシャーを感じたときの対処法

薬局長という役割には、日々さまざまな責任と判断が求められます。
業績、部下の育成、トラブル対応……
そのどれもが重く一人で抱え込んでしまいがちです。

特に悩みや不安をうまく言葉にできず、
「自分だけが苦しいのではないか」
と感じてしまう瞬間もあるのではないでしょうか。

ですがそのプレッシャーを放置してしまうと心も体も疲れ切ってしまいます。
だからこそ薬局長が孤独や重圧とうまく付き合うために持っておきたい、
3つの意識をお伝えします。

① 目的は何かを確認してから行動する

忙しい毎日の中、
「とにかく今目の前のことを処理しなければ」
と動いてしまうことはよくあります。

ですが、そんな時こそ一度立ち止まり、
何のためにやっているのかという目的を見直すことが大切です。

  • この対応は、スタッフの成長につながるのか
  • その指示は、チームのためになるのか
  • 今、優先すべきことは何なのか

目的を意識せずに動いてしまうと、
努力が空回りし気づけば疲れだけがたまっていることも。
仕事が立て込んでいる時ほど、
「これは誰のため・何のためなのか?」を確認することで、
行動の軸が定まり心にも余裕が生まれます。

② 自分でできることとできないことを分ける

薬局長になると、
「自分が全部なんとかしなければ」と責任を感じてしまうことも増えます。
しかしすべてを一人で抱え込む必要はありません。

  • 店舗内の判断は自分で下す
  • 人事や評価制度については本部と連携する
  • 経営や制度に関する悩みは、上司や他店の薬局長と相談する

実際に業務をしていると、
「これは自分一人では決められない」と感じることが多くあります。
判断すべきこと・共有すべきこと・任せてよいこと・・・
その切り分けが負担を減らし、効率的に問題解決するカギになります。

できないことを「できない」と認めるのは決して弱さではありません。
むしろ自分の限界を知り適切に頼れることこそが、
薬局長に必要な調整力なのです。

③ 自分で自分を追い込まない|相談とリフレッシュの習慣を持つ

責任感が強い薬局長ほど、
「もっと頑張らないと」「こんなことで弱音を吐いてはいけない」
と、自分を追い込んでしまいがちです。
でもその状態が続くと心の余裕がどんどん削られてしまいます。

だからこそあえて力を抜く時間や気持ちを吐き出す場所を持つことが必要です。

  • 上司や同僚に素直に悩みを相談する
  • 休日は業務から離れ、趣味やリラックスの時間を大切にする
  • 家族や友人と何気ない話をする時間を持つ

こうした小さな行動が心をリセットし、
「また明日もがんばろう」と思える気持ちを育ててくれます。

薬局長は支える立場であると同時に自分を守る立場でもあります。
自分のコンディションが崩れてしまえば、
スタッフを支えるどころか店舗運営そのものにも影響が出かねません。

だからこそ

  • 目的を見失わない
  • 自分の限界を知る
  • 自分にやさしくする

この3つの意識を日常の中で少しずつでも意識してみてください。
あなたが前向きに健康でいられることが、
薬局というチームにとって最も大きな支えになるはずです。

私の経験からお伝えしたいこと

実は私自身、過労とストレスから体を壊し、
メンタルにも大きな不調をきたした経験があります。
当時は「自分が頑張らなければ」という思いに突き動かされ、
無理をしている自覚すらありませんでした。

しかし今振り返ると心の余裕が失われたとき、
人は視野が狭くなり判断も鈍くなります。
体が疲れれば思考も鈍りいつもならできる判断さえ誤ってしまうのです。

逆に心身ともに健康であればどんな困難にも冷静に立ち向かうことができます。
どんな立場であれまず大切にすべきは「あなた自身の健康」です。

薬局長としてどうか自分を守ることを最優先に考えてくださいね。

まとめ

薬局長という立場になると、
部下との関係性、孤独感、人が育たないことなど、
さまざまな悩みが押し寄せてきます。
ですがその多くは「一人で抱え込もうとすること」から生まれているのかもしれません。

今回お伝えしたように、

  • 上司としての距離感と信頼関係をどう築くか
  • 「相談される存在」になるために、何ができるのか
  • 自分の心と体を守るための、ちょっとした工夫

こうした視点を意識するだけで職場の空気は少しずつ変わっていきます。
薬局長は孤独な役割に思えるかもしれませんが、
本当の意味でチームの中心になることで、
不安や重圧も和らいでいくはずです。

次回(第3回)は、薬局長としてさらに成長するために、
意識しておきたい「3つの視点(実践編)」をお届けします。
不安を抱えながらも前に進みたいあなたに、
少しでもヒントになる内容をお伝えできれば幸いです。

どうぞお楽しみに。

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