薬局長を8店舗、エリアマネージャーを計10年を経験し、
現在課長職として働く現役薬剤師のta-sanです。
今までの経験を踏まえて薬局長として知っておくべき知識や、
学んでおくと役立つことをツラツラ綴ります。
この内容の対象者として以下のような薬剤師さん向けの内容になります。
・最近初めて薬局長(管理薬剤師)になった方
・薬局長の経験が短い方
・薬局長として働いているが経営数字が苦手な方
・経営数字を学びたいがどう学んでいいか悩んでいる方
またここでいう薬局長とは、
「薬局において運営・管理を任された方」
を指しています。
(コンビニやスーパーで言うと店長になります)
薬剤師向けの話になりますので、
いわゆる調剤薬局をイメージした内容になりますが、
ドラッグストアの物販薬局長の方でも、
理解できるように説明します。
今回は損益分岐点と変動費について説明します。
とは言え大事なのは損益分岐点の考え方です。
なのでこちらを中心に進めていきます。
損益分岐点とは何か
ではそもそも損益分岐点とはどういう意味でしょうか。
損益分岐点とは・・・
売上と経費の総額がちょうど同じになる金額のこと
また金額ではなく販売数量で示されることもある
損益分岐点とは売上=経費となる金額のことです。
ですから損益分岐点では利益も損失も出ない売上になります。
ちなみに薬局などの小売業では、
一般的に損益分岐点は売上を指すことが多いです。
なので少なくともこの損益分岐点にさえ達することが出来れば、
赤字を出さないことになります。
(ここでは損益分岐点と損益分岐点売上高は同じ意味として扱います)
前回の固定費の説明をした際に、
最後のほうで必要な売上高と客数の計算を行いました。
実はこの計算こそが損益分岐点の考え方そのものなのです。
損益分岐点は簡単に計算できる
今回一番に覚えてほしいことは一つの式です。
ずばり損益分岐点(売上高)を求める公式です。
損益分岐点 = 固定費 ÷ 荒利益
この式さえ覚えればあなたの勤めている店舗で、
赤字にならない必要な売上がいくらになるのかがわかります。
すこしグラフを使って説明します。
前回も固定費と変動費のグラフを示しましたが、
今回のグラフで1点追加した項目があります。
それは売上(赤のライン)になります。
おさらいになりますが、
固定費は売上の増減に全く関係なく、
一定にかかる経費を表します。
ですから売上の金額が増えたところで、
固定費の金額は変わりません(青のライン)。
一方変動費は売上に比例して増えていく経費のことです。
また当然ですが「売上>変動費」ですから、
(もし「売上<変動費」なら全く利益が出ないですよね)
変動費(緑のライン)は売上(赤のライン)よりも、
緩い角度で上昇します。
そして売上が増えていくといずれ固定費と変動費の合計金額に、
重なり合うことになります。
(グラフでいうと〇で囲ったAのポイント)
つまりここのポイントが損益分岐点売上高となるわけです。
繰り返しになりますがこの分岐点を計算で求める際に先ほどの式、
損益分岐点 = 固定費 ÷ 荒利益
で求めることが出来ます。
ちなみに損益分岐点売上高ではなく、
分岐点までに必要な客数を求めたいなら、
損益分岐点客数=固定費÷1枚当たりの荒利額
で求めることもできます。
ここで言う荒利額は調剤薬局であれば、
処方箋1枚当たりの技術料+薬価差益の合計額の割合になります。
ここからはもっと詳しく知りたい人だけでOK。
実際に損益分岐点を求める計算式を紐解いていきます。
以前から説明している通り、
利益を計算するなら下の式になります
利益 = 売上-経費
経費は変動費と固定費の足し算になるので、
利益 = 売上-(固定費+変動費)
ここで変動費の表現を変えます。
売上に占める変動費の割合のことを変動費率と言います。
なのでこの変動費率に関しては、
変動費 = 売上×変動費率
と表すことが出来ますので先ほどの式に当てはめます。
利益 = 売上-(固定費+(売上×変動費率))
= 売上-固定費-(売上×変動費率)
ここで「売上」の項目をまとめます
利益 = 売上-(売上×変動費率)-固定費
= 売上 (1-変動費率) -固定費
損益分岐点は利益が0円の売上をさすため、
(グラフでいうとAのポイント)
0円 = 売上(1-変動費率)-固定費
になります。
ここで売上の項目を移行させて、
かつ両辺を(1-変動費率)で割り算します。
売上(1-変動費率) = 固定費
売上 = 固定費 ÷ (1-変動費率)
以上が損益分岐点を求める計算式となります。
ややこしく感じたらこの求める計算式は無視してOK!
薬局における変動費とは何を指すのか
さきほど薬局で損益分岐点を求める計算式は
損益分岐点=固定費÷荒利益
と説明しました。
ただしこの式は調剤薬局やドラックストアといった、
小売業全般で成り立つ計算式となります。
他業種も含めて実際に使われる計算式は
売上=固定費÷(1-変動費率)
となります。
ということは薬局にとって、
「1-変動費率」と「荒利率」が同じ意味になるということです。
なぜでしょうか。
変動費は売上の増減によってその金額が変わります。
また薬局における変動費のほとんどが原価となります。
実際に皆さんの勤めているデータを見てみて下さい。
原価の金額が他の項目と比べて、
ずば抜けて大きい金額になっていませんか。
ですので調剤薬局であれば薬剤料、
ドラックストアであれば販売する商品の原価(仕入値)と考えても、
全く不自然にはならないのです。
なので下記の式気が成り立ちます。
変動費=原価
変動費率=原価率
売上と原価(仕入値)の関係は
売上=原価+荒利(利益)
になりますし、それぞれ両辺を売上で割れば
売上/売上=原価÷売上 + 荒利÷売上
1=原価率+荒利率
となります。
変動費は原価(仕入値)と同じと扱うなら、
変動費=原価率と同じく扱うことが出来ますので、
(1-変動費率) = (1-原価率) = 荒利率
と考えることが出来ます。
なのでこの式を当てはめれば、
売上 = 固定費 ÷ (1-変動費率)
= 固定費 ÷ 荒利率
になります。
ここまで長く書いてしまいましたが、
結論は、
固定費を荒利率で割ればいい!!!
が理解できれば十分です。
変動費率が売上に与える影響
では変動費率そのものの変化は、
損益分岐点にどう影響するのでしょうか。
まずは下のグラフを見てください。
変動費率が小さい(つまり原価があまりかからない)場合は、
損益分岐点売上高が少なく済みます。
原価率が小さいということは荒利率が高くなるということですから、
変動費の線が緩い上昇になります。
その分だけ分岐点が左へ進むということになります。
反対に原価率が大きくなる場合は、
緑のラインの角度がきつくなります。
よって損益分岐点が右にずれてしまいます。
分岐点までに必要な売上が大きくなるということです
では荒利率が売上にどれくらい影響を与えるのか、
計算してみましょう。
条件として固定費が200万円と仮定し、
荒利率が20%と25%でどれほどの差になるでしょうか。
荒利率:20%
200万円÷0.2=1,000万円
荒利率:25%
200万円÷0.25=800万円
つまり荒利率5%の価値は、
売上200万円に相当するということになります。
利益を稼ぐなら固定費を下げて荒利率を上げる
前回の固定費を説明した際にも書きましたが、
まず利益を出しやすい構造にするためには、
まず固定費を下げることと説明しました。
そしてもう一つ大事なのは荒利率です。
特に薬局の場合、
商品仕入れに関わず原価が非常に大きな金額になります。
つまり塵も積もれば山となるではないですが、
ちょっとした荒利率の差が、
利益に大きく影響することを理解してほしいです。
最後に固定費と荒利率の差による、
損益分岐点売上高の違いをまとめてみました。
実際に皆さんも計算してみてください。
随分と大きな差になると思いませんか?
条件として・・・
荒利率:20%・25%・30%
固定費:180万・200万・220万
いかがでしたでしょうか。
少しでも参考になったら嬉しいです。