今年に入ってからにいわゆる「調剤の外部委託」の議論が、
非常に盛り上がっています。
まあ盛り上がっているといっても薬局関係者からすれば、
「他業種の人が何勝手に薬局運営について意見言っているのだ」
「調剤業務は薬局や薬剤師が中心となって行うものだ」
と大きな声で叫びたい方も多いのではないでしょうか。
その理由はとても簡単で、
日本経済団体連合会(経団連)が2022年1月に内閣府に提出した、
調剤の「外部委託」 に関する要望を受けて議論が始まってしまい、
どうも厚生労働省や日本薬剤師会の意見が押され気味・・・、
というか押されっぱなしの業況が見えてきたからです。
(厚生労働省の本音は外部委託やりたいのかもしれないですが…)
経団連自体が求めているいわゆる規制改革の内容はいくつかあるようですが、
その中においてもこの調剤の外部委託に関しては、
薬局側と真向対立状態になっています。
当然薬局側からしたら調剤業務は不可侵領域であり、
言葉が悪いですが他業種にとってアンタッチャブルの領域ですからね。
法律で
「薬局の開設者は、調剤の求めがあった場合には、
その薬局で調剤に従事する薬剤師にその薬局で調剤させなければならない」
と規定されていますし、
これにより調剤の外部委託は現在認められていない状況ですから。
先に個人的な意見を言うと、
調剤の外部委託は正直ありじゃないかなと思っています。
(反対している他の薬剤師の皆さん、スイマセン・・・、
こんな私を恨まないでください・・・)
お前は何かの回し者か!と叱られそうですが、
私の勤めている薬局は複数店舗を構えているものの、
規模でいえば中小薬局です。
決して大手調剤ではありません。
(大手調剤チェーンはおそらくやりたいでしょうからね)
なぜそう思ったのか、書いていきたいと思います。
目次
- 調剤の外部委託を日本薬剤師会が反対している理由
- そもそも国は薬局を減らしたい・・・
- 実際のところ調剤にかかる時間が多いのが現状
- 薬を間違えた時の責任はどこに持たせるのか
- ここはビジネスチャンスの考えるべき
調剤の外部委託を日本薬剤師会が反対している理由
まずはこの調剤の外部委託について、
日本薬剤師会が反対している理由をあげてみます。
主な内容は以下になるかと思います。
- 調剤業務は法律で薬剤師に与えられていた業務であり薬剤師業務の本質そのものである
- 調剤業務は単に薬を集める行為ではなく処方箋内容や患者状況などを総合的に判断し、
かつ投薬指導と投薬後のフォローアップを含めた一連の業務のため切り離しすることはできない - 外部に委託した場合、何らかの事故が起きた場合の責任の所在があやふやになる
- 調剤の外部委託により患者に対する安全性の確保が担保できなくなる
対して規制改革推進派の意見は、
- 個々の薬局で調剤業務を行うよりも一部の薬局に業務を集約することで、
業務の効率化を図ることが出来る - 薬局が抱える在庫負担が格段に減る
- 調剤業務の負担が減ることからいわゆる「対人業務」に時間を割くことが出来るようになり患者のメリットにもつながる
といったところだと思います。
まとめると推進派は
「いまの調剤業務が非効率なんだからもっと効率的にやろうぜ」
「何なら中小薬局の業務も減るのだからいいじゃないか」
てな感じで、これに対して薬局側は
「非効率が問題じゃなんだよ」
「薬剤師が調剤することで患者の安全を守っているのだよ」
「医療の現場に何でもかんでも効率っていうな!」
と反論しているわけです。
そしてこの薬局側の反対の裏には、
「うちの薬局がつぶれてしまうのではないか」
との不安があるわけです。
実際に日本薬剤師会からは外部委託が解禁されることで、
薬局の2~3割は潰れてしまい、
地域の医療を支えられなくなると発言しています。
そもそも国は薬局を減らしたい・・・
日本薬剤師会が感じる危機感はごもっともだと思います。
もし解禁となれば資金力のある大手調剤や他業種の参入により、
調剤業務が奪われることにつながります。
そうなれば多くの中小薬局の会員で成り立っている日本薬剤師会とすれば死活問題です。
反対するのは至極当然です。
とはいえ国の本音を考えてみると、
兎にも角にも医療費を抑えたい訳です。
日本は高齢化社会なので年間の医療費の予算は右肩上がりです。
厚生労働省HPより
そりゃなんとしてでも医療費を下げたい、
もし調剤業務の効率化が進み、
1回あたりの治療費(薬局にとっては調剤報酬)が下げられるのなら、
推進させたいというのが本当のところでしょう。
そもそも国は薬局数が多いと考えています。
現在6万店ほどあるとされる薬局数が多いと考えているわけで、
実際にここ最近の調剤報酬改定は薬局にとって常に厳しい改定内容になっています。
ですからいくらこのままじゃ薬局数が減ってしまうよと主張したところで、
「いやいやそもそも減らそうと考えているからかえって好都合だね」
と返されて終わりのような気がします。
実際のところ調剤にかかる時間が多いのが現状
他の反対理由も考えてみます。
確かに現状は法律で調剤業務は薬剤師の専売特許にはなりますが、
こんなの法律を変えられてしまえば即アウト。
薬剤師の政治力は正直弱いですからね・・・。
「じゃあ法律変えてしまえ」
なんて思われたら、
あっという間に政治の力に飲み込まれそうな気がします。
あとは調剤業務の範囲の認識の問題でしょうか。
確かに調剤業務は単に薬を集める行為ではないと私も思います。
処方内容と患者状況などを踏まえたうえで、
まずは処方の安全性と妥当性を判断しているわけで、
その判断のもと患者ごとに指導内容を変えていくわけですから。
これに関しての反論は私にとっても全くありません。
ただし・・ですが、
実際のところ薬局において時間がかかる業務は何かといえば、
その1つは調剤業務です。
薬歴に時間がかかると思う方もいるでしょうが、
実際にかかる時間は調剤のほうが長いはずです。
患者を待たせている理由は何かといえば調剤にかかる時間です。
正直に言って私も調剤にかかる時間が少なく成ったら楽なんだけどな・・・、
なんて感じたこと何回もあります。
だからこそ推進派の言う調剤業務の効率化について、
私個人としては非常に合致していてしまいます。
調剤業務の一連の作業は、
工夫次第で切り離しすることはおそらく出来てしまうでしょう。
だって調剤するまえに服薬指導するケースもありますからね。
慢性疾患などの長期処方であれば、
その場で渡す必要性が少なくなることも多々ありますから、
投薬した薬局と調剤した薬局が別であったとしても、
そこまで支障があるのかと言われたらないと考えるのが自然に思えます。
薬を間違えた時の責任はどこに持たせるのか
仮に解禁されたとしてですが、
個人的に思う一番のハードルは責任問題だと思います。
安全性の問題も含めてですね。
薬を間違って渡してしまった時にどの薬局(もしくは薬剤師)が、
責任を負うのかという問題です。
ここをはっきりさせないと仮に法改正で対応できるとなったとしても、
利用は進んでいかないと考えます。
もし投薬した薬局側が責任を取るとなれば、
単に調剤をお願いして監査は自薬局で行うことになるでしょうし、
調剤した薬局側が責任を持つとなれば、
投薬した薬局は患者の処方薬を触れる必要性はなくなり、
(投薬した薬剤師が監査する必要がなくなるかも?)
調剤側で直接配達なり郵送対応なりで済ませてしまうケースが増えるのかもしれません。
ここはビジネスチャンスの考えるべき
おそらくですがどんなに反対意見が出ようとも、
外部委託は許可されるだろうなと個人的には予測しています。
もちろん最初のうちはある程度制限をかけての運用になるでしょうが、
(実際に最初の解禁は一包化からとの声があるようです)
徐々に拡大解釈されていくでしょう。
理由は簡単かつ単純です。
国は医療費をとにかく下げたいからです。
この流れは絶対に変わらないし変わらないはずです。
どんなに日本薬剤師会が反対したとしても、
多少は開始時期が先に延びるかもしれませんが、
それは単なる延命処置にすぎない気がします。
そもそも日本薬剤師会もただ反対するだけではなく、
自分たちの少しでも有利な条件になるように、
自らルール作りをすればいいのにとさえ感じています。
実際には提案しているのかもしれませんが、
その内容は守りのルール改正ではなく攻めのルール改正であってほしいと考えています。
何なら日本薬剤師会が自分たちで委託調剤薬局作っちゃえばいいのになって。
ルール変えられるのなら、新しいルールで物事を考えればいい。
日本薬剤師会の方はもっといい意味でずる賢くいってほしいと思います。
もちろん既存の薬局が減ってしまうとは思います。
ですが別の形をした薬局が増えていくとも思っています。
仮に外部委託が解禁になれば、薬局の新規開局のハードルはかなり下がるはずです。
あくまでオンライン投薬を絡めての話となりますが、
自店舗で調剤をする必要が無くなりますから、
在庫資金が格段に減ることになります。
さらには薬局そのものの敷地面積も必要なくなります。
つまり狭い空間だとしても開局することが出来るということになります。
もちろん家賃も抑えられることでしょう。
必要となる従業員も減ることになりますから、
人件費も抑えることが出来るはずです。
変化の乏しい薬局は確かに2~3割減るかもしれません。
しかし開局のハードルが低くなるなら、
今懸念しているよりも薬局は減らないかもしれないとも思えるのです。
まとめ
長々と書いてきましたが、
先に書いたように調剤の外部委託は個人的には賛成です。
これにはおそらく国が解禁をするであろうから、
受け入れざるを得ない面も当然あります。
ならば新たなビジネスチャンスとしてとらえたほうがいいとも思うわけです。
解禁するのであれば調剤の責任の明記が必須ですし、
何よりいい意味で薬剤師が中心となってルールを作っていけるとなお良いですね。
ここは日本薬剤師会に大いに期待したい点です。
私なりの意見をまとめますので、これを読んだ方のご意見があれば大変うれしいです。
- 調剤の外部委託は調剤業務の効率化につながる
- 対人業務に時間をより割くことが出来る
- 新規開業のハードルが下がる可能性がある
- もちろん責任の所在と安全性の担保は必須