働き方の話

現場薬剤師の「本部への違和感」はどこから来るのか?その背景を考える

「本部って、結局なにをしているの?」
薬局で働く現場薬剤師なら、
一度はそう思ったことがあるのではないでしょうか。

日々の業務に追われる中で、
突然降りてくる本部からの指示や報告依頼。
「現場のことを知らない」
「ただ数字やルールを押しつけてくるだけ」
そんな違和感を覚える方も少なくないことでしょう。

いまでこそ私も本部側で働いていますが、
若い頃はもちろん現場薬剤師として働いていましたから、
距離感を抱くことはなんら不思議ではありません。

先に私の考えを伝えると、
本来の本部機能は「現場を縛るため」ではなく、
「現場がスムーズに動けるよう支えるため」に存在しています。
ただその役割は普段なかなか見えづらいため、
どうしても誤解や距離感が生まれてしまうのだと私は感じます。

この記事では現場薬剤師が抱きやすい本部への違和感の背景を整理しつつ、
「なぜそう感じるのか?」を冷静にひも解いていきます。
少し視点を変えるだけで、
あなたの仕事の見え方もきっと変わってくるはずです。

 

なぜ現場薬剤師は本部に違和感を抱くのか

なぜ現場と本部に距離感を感じるのか

現場薬剤師が本部に距離を感じる最大の理由は、
日常の業務に直結していないためです。
患者対応や調剤業務、服薬指導など、
現場での仕事は「目の前の患者ために動く」ことが中心になります。
一方で本部の仕事は数値管理や方針策定、組織運営など、
現場から見えにくいテーマが多いのが実情です。

そのため
「自分たちが必死で患者さんに向き合っているのに、本部は別世界の話をしている」
と感じてしまうのです。
さらに現場の忙しさに対して本部からの依頼や報告が追加されると、
「余計な負担をかけられている」
という印象につながりやすくなります。

「本部は現場を知らない」と感じやすい理由

本部からの通達や方針が「現場の実態に合っていない」と感じる経験は、
多くの薬剤師にあるはずです。

例えば、

  • 繁忙時間帯を考慮せず提出期限を指定される報告依頼
  • 患者対応よりも優先すべきか迷うレベルの細かいルールの改訂
  • 店舗によって事情が異なるのに、一律で適用される運用方法

こうした現場感覚のズレは、
「本部は現場を理解していない」という印象を強めます。
もちろん本部にも意図や理由はありますが、
現場からはその背景が見えにくいため、
どうしても違和感を抱きやすいのです。

なぜ本部は数字や方針ばかりを伝えるのか

「結局、本部って数字の話しかしないよね」
と感じたことはないでしょうか?
これは本部の立場上、
会社全体を俯瞰して売上や人件費といった KPI (数値目標)を管理し、
方向性を示す必要があるからです。

一方で現場にいる薬剤師にとっては、
「目の前の患者対応や調剤業務」が最優先。
だからこそ数字や方針だけを伝えられると、
「現場を見ていない」と感じやすくなります。

私自身も本部で働いてみてわかったのですが、
数字や方針というのは 現場を支えるための基盤 です。
ただその意図や意義が現場に十分に伝わらないと、
「現場を動かすため」ではなく「現場を縛るため」と受け取られてしまうのです。

薬剤師から見えにくい「本部の意味」

理念を共有し会社全体の方向性を示す役割

本部機能を持つ薬局はある程度の規模が大きい会社といえます。
数店舗なら本社機能がなくても運営は可能でしょう。
しかし全国展開しているような薬局では、
本部なしに運営することは不可能です。
各店舗がバラバラに動けば非効率になり、
会社全体の一貫性も失われてしまうからです。

そのため本部は、
「会社としてどこを目指すのか」を明確に示し、
理念や方針を全店舗に共有する役割を担っています。

例えば、

  • 地域の健康インフラを支える
  • 在宅医療に積極的に取り組む
  • 患者に寄り添うかかりつけ薬剤師を全店で推進する

こうした理念は現場の判断だけでは決められません。
全体の方向性があるからこそ、
現場の取り組みが同じゴールへと収束していくのです。

現場では気がつきにくいリスク管理や制度対応

薬剤師として日々現場で働いていると、
患者対応や調剤業務など「目の前の仕事」がどうしても中心になります。
しかし薬局という組織を長期的に安全・安定して運営するためには、
現場だけでは見えにくいリスクや制度への対応が欠かせません。

例として、

  • 法改正や制度変更への対応
    調剤報酬改定や薬機法の改正に対して迅速に方針を出し、現場が混乱しないようにする
  • 監査や行政対応
    薬歴管理や保険請求において不備がないよう全店レベルで仕組みを整える
  • 労務リスクの管理
    過重労働やハラスメント防止など、現場だけでは対応しきれない労務リスクを会社全体としてコントロールする
  • 災害・緊急事態の備え
    BCP(事業継続計画)を策定し、緊急時にも薬局が機能できるよう体制を作る

こうした業務は現場の薬剤師からすると、
「直接の患者対応と関係ない」と感じられるかもしれません。
しかし制度やリスク管理を怠れば、
ある日突然「営業停止」「保険請求の返戻」、
最悪の場合は「店舗閉鎖」といった大きな不利益に直結することもあるのです。

本部は現場が安心して患者さんと向き合えるように、
こうした見えにくいリスクを先回りして管理しているのです。
だからこそ本部の役割は、
時に地味に見えても現場を守る盾として機能していると言えます。

本部は現場を縛る場所ではなく「支える場所」

「本部はルールを押しつけるだけ」
「現場の自由を奪う」
そんなイメージを持たれがちですが、
本来の本部の役割はまったく逆です。
本部は現場がより安全に効率的に、
かつ安心して働けるように 現場を支える場所 なのです。

皆さんの会社にも以下のような事例があるはずです。

  • 業務フローの標準化
    店舗ごとにバラバラのやり方を整理し、一定の品質で対応できるようにする
  • システム導入やツール整備
    薬剤師が入力や調剤業務に集中できるよう、業務効率を高める仕組みを整える
  • 教育・研修の企画
    現場で薬剤師が自己流にならないよう、必要な知識やスキルを学べる場を提供する
  • 人員配置や採用のサポート
    現場が人手不足に悩まないよう、裏側で人事・採用を調整する

これらは一見すると直接患者に関わる仕事ではないため、
現場からは見えにくい部分です。
しかしこうした仕組みやサポートがあるからこそ、
現場薬剤師は安心して患者対応に集中できるのです。

私自身も本部に携わる立場になって感じたのは、
「現場を縛るためではなく、現場を守るために本部は存在している」
ということでした。

とはいえ、
「本部からくる指示はうちの店舗に合わないことがある」
と感じたことも多いはず。

でもちょっと考えてみてください。
仮に皆さんの会社が30店舗展開しているとします。
この30店舗はすべて同じスペックでしょうか。

数字面では売り上げや患者数が違うでしょう。
店舗の大きさも違いますし働く社員数も違います。
その働いている社員のレベルも違う。

つまり本部からの指示は、
「どの店舗にもだいたい合うであろうライン」の指示を出さざるを得ません。

現場の薬剤師が感じるずれはここにあるのだと私は思います。

仮に多少のずれがあったとしても、
大本の考え方はきっとあっているはずです。
大事なことは本部と現場は対立するものではなく、
相互に補完し合う関係であることを知っておくだけでも、
あなたの働き方の見え方が変わりますよ。

現場の仕事がスムーズに回るために本部がある

薬剤師が現場に集中できる環境づくり

現場薬剤師の本来の役割は、
患者さんに向き合い安全で正確な調剤や服薬指導を行うことです。
ではそのための「働く環境」は誰が整えているのでしょうか。

たとえば給料計算。
働いた時間から社会保険料や税金を引き、
正しく支給するのは本来とても複雑な作業です。
もし本部がなければ、
あなた自身が毎月計算して請求しなければならないかもしれません。

こうした裏方の仕組みを担うのが本部です。

本部が給与計算やシステム整備、業務フローの標準化を行うからこそ、
現場薬剤師は余計な負担を抱えず患者対応に集中できるのです。

本部が担う調整・交渉の役割

例えば皆さんが当たり前のように毎日仕入れている医薬品や商品。
その価格交渉や仕入れルートの確保、
新商品の導入や在庫調整、
さらには売上増を見込んだ販促案はこれらはすべて本部の重要な仕事です。

もし現場薬剤師一人ひとりが取引先と交渉しなければならないとしたら、
どれだけの時間と労力が必要になるでしょうか。
交渉には情報量も専門知識も必要であり、
現場業務と両立するのは現実的ではありません。

だからこそ本部が間に入り、
全社の方針やルールに沿って外部との交渉を一括で担っています。
商品がスムーズに納品されるのは当然に見えても、
その裏には現場を支えるための見えない努力があるのです。

現場の代わりに本部が調整を引き受けているからこそ、
皆さんは余計な負担を背負わず、
患者対応という本来の仕事に集中できるのです。

現場と本部の役割分担を理解することの大切さ

現場と本部はしばしば「対立している」ように見えるかもしれません。
しかし本来の姿は、
どちらかが優れているのではなく役割が異なるだけなのです。

現場の薬剤師は患者と直接向き合い、
安全で確実な医療サービスを提供することが最大の使命です。
一方で本部は現場がその役割を果たしやすくするために、
仕組みや制度、環境を整えることが使命です。

要約すると・・・

現場の役割:患者対応・調剤・服薬指導・地域医療への貢献
本部の役割:理念やビジョンを共有し、現場業務をフォローする立ち位置 

こうした役割分担があるからこそ、
会社は一つの方向にまとまり継続的に成長していくのです。

もし現場と本部が互いの役割を理解せずに、
「押しつけ」「無関心」といった姿勢になってしまえば、
最終的に患者さんにとっての最適な医療を提供することは難しくなります。

大切なのは現場も本部も、
「患者さんによりよい医療を届ける」
という同じゴールを目指していることです。

お互いに役割を尊重し補完し合うことで、
組織全体の力が最大限に発揮されるのです。

本部を知ることで広がる薬剤師のキャリア視点

キャリアを「現場だけ」で考えるリスク

ここまで読んでいただいた皆さんなら、
本部の役割が少しでも理解できたのではないかと思います。
たとえ直接患者さんと接することはなくても、
「患者さんのためのサービス」に向かう姿勢は同じなのです。

では少し視点を変えてみましょう。
薬剤師のキャリアという視点です。
薬剤師のキャリアを「調剤・服薬指導」という現場業務だけで考えると、
どうしても視野が狭くなってしまうと感じないでしょうか。

一見現場がすべてのように思えても、
会社は現場だけでは回りません。
制度対応やリスク管理、組織運営といった見えない部分を知ることで、
現場とは違う自分のキャリア選択の幅が広がるはずです。

また本部の役割を理解していると、
現場で働くときの発言力や説得力が大きく変わってきます。
なぜなら「現場の視点」だけでなく、
「会社全体の視点」を踏まえて話ができるからです。

現場のスキルだけでなく、
「組織を理解する力」「人を動かす力」に興味があるなら、
本部側の仕事を少し覗いてみるのも一つの選択肢かもしれません。
必ずしも本部勤務を目指す必要はありませんが、
知っているだけでもあなたの可能性は確実に広がります。

本部機能を理解すると現場での発言力も変わる

現場での発言力や影響力は、
知識量や経験年数だけで決まるものではありません。
実は本部の考え方や背景を理解しているかどうかで、
周囲からの見られ方は大きく変わります。

例えば本部に意見を上げる際に、
単に現場視点のみの意見を上げてしまうと、
どこかわがままな意見に聞こえることがあります。

しかし本部側の視点を入れつつの意見だと、
「全体を見て意見を言っているのだな」と感じ、
意見を取り入れてみようかと感じるものです。

少しの気配りのある一言が意見の説得力を高めることにつながります。

実際私も現場の意見のみつらつら言われると受け入れにくく感じるのですが、
こちらの立場を踏まえてくれると、
「じゃあ何とかしようかな」ってなるものです。

本部の人間も感情があります。
理解されていると感じると対応してくれることがあります。

結果として本部機能を理解することは、
あなた自身の発言力や影響力を高める武器になります。
それは出世を目指すかどうかに関わらず、
現場で働き続ける上でも大きな価値になるはずです。

ちょっと興味を持つだけで見える景色が変わる

本部の仕事にがっつり関わる必要はありません。
しかしほんの少しだけでも、
「なぜこの指示が出ているのか?」
「この制度はどういう背景で作られたのか?」と興味を持つだけで、
現場での仕事の見え方は大きく変わります。

  • 「無駄」と感じていた報告業務が、将来の制度改正や監査に備えるためだった
  • 「細かいルール」と思っていたが、トラブルを未然に防ぐためのリスク管理だった
  • 「押しつけ」と感じていた数値目標が、経営を維持するための基盤だった。

このような背景を少し知るだけで、
「やらされている仕事」から「意味のある仕事」へと認識が変わります。

また感じたことを意見として伝えることも私は大事なことだと感じています。
もしかしたらあなたの見えなかった意図が隠れてることもあります。
疑問を持ったら本部に質問したり、
自分の感じたことを意見として伝えてみてください。

薬剤師としてのキャリアはなにも調剤・服薬指導だけにとどまりません。
あなたが感じたことが他の店舗や社員に大きく影響を与えることもあるのです。
本部と現場の役割は違いますが向かうべきゴールは一緒なのですから。

 

現場の薬剤師が本部の指示に違和感を抱くのは自然なことです。
しかし本部の役割は「縛ること」ではなく「支えること」にあります。
その存在を少し意識するだけで、
日々の仕事の意味づけやキャリアの可能性が広がっていきます。

次の第2回では「薬剤師から見えにくい本部の役割」 を掘り下げ、
現場を支える具体的な裏方の機能について解説していきます。

 

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