以前に処方箋で使用する医薬品の在庫が、
どの薬局でも不足状態になっているということ書きました。
ジェネリックメーカーである小林化工の不祥事から始まり、
在庫不足の解消策として先発品の代替をあげましたが、
ほぼ先発品の増産はなく、
今後も医薬品不足を解消するのは難しいとも書きました。
そしてこれらには「薬価改定」と「診療報酬」が関係すると締めくくりました。
今回はその話をしていきます。
改めてになりますが薬価(保険で使用される医薬品の価格)は国が決めています。
毎年この薬価は見直しを行っています。
この見直しを「薬価改定」と言います。
ではなぜ毎年薬価の見直しが行われるのでしょうか。
理由は皆さんもご存じの通り「医療費を抑える」ことです。
まずは表を確認ください。
厚生労働省が発表していデータを基にした医療費総額のグラフです。
見ての通り医療費総額は右肩上がりに増加しています。
(令和2年度に総額が減少していますが、
これはコロナウィルス感染による受診控えがあったためです)
原因はお分かりの通り日本では少子高齢化が進んでいるため、
高齢者の方が増えたことによる影響です。
今後も少子高齢化社会はしばらくは止まることがないため、
何もしなければ当然医療費総額は増える一方です。
そこで国は医療費を抑えるために様々な対策を打ち出しています。
その対策の1つが薬価改定による医薬品の価格を下げることになります。
よくグラフを見てもらうとわかるのですが、
実はここ数年や医薬品総額(グラフ内の薬剤料の金額)はほぼ変わっていません。
高齢者の病院への受診が増えれば使用される医薬品の量が増えるにもかかわらずです。
つまり国は薬価を調整することで医薬品総額を抑えていることになります。
医薬品総額がここ数年横ばいの理由は薬価改定による薬価を下げているだけではありません。
診療報酬の改定による影響も大きくあります。
診療報酬とは病院で行われる診察や検査、手術などにかかる金額を定めたものです。
(薬局でかかる医療費については調剤報酬と言います)
これは2年ごとに内容の見直しが行われます。
この診療報酬の内容の一部にジェネリック医薬品の使用についての項目があります。
※令和2年度診療報酬より抜粋(1点は10円)
①後発医薬品のあるすべての医薬品が一般名処方されている場合
(後発医薬品が2品目以上含まれる場合に限る)・・・7点
②後発医薬品がある医薬品が1品でも一般名処方されている場合・・・5点
つまり処方箋に後発医薬品(ジェネリック)の使用を認めれば、
点数(お金)をつけていいですよという意味です。
点数が増えれば病院の収入となるため、
特別な理由がない限り病院はこの点数をつけていると思います。
ジェネリック品は先発品(先に開発し販売した医薬品)と比べ、
価格は大きく抑えられています。
つまりジェネリック品を患者に使用してもらうことで、
医薬品総額を抑えることができます。
そして薬局(調剤報酬)に対してもジェネリック使用に関する項目があります。
※令和2年度調剤報酬より抜粋
①後発品置換率75%以上・・・15点
②後発品置換率80%以上・・・22点
③後発品置換率85%以上・・・28点
後発置換率40%以下・・・2点減点
(他にも条件あり)
薬局のジェネリック品の使用頻度が高いなら点数をつけていいよという意味です。
そればかりでなく使用率が低い薬局は点数を2点下げるよとも言っています。
このような対策を行うことでジェネリック品の使用率を上げ、
結果として医薬品総額を何とか横ばいに抑えているのです。
「点数(お金)が付くのなら医療費が高くなるのでは」
「受診した患者の負担額が増えるのでは」
と考える方もいると思います。
確かにここの項目だけを見ると医療費は高くなりますが、
先発品からジェネリック品の使用に変えたことによる医薬品の差額のほうが大きいため、
総合計の医療費の負担は下がることになります。
ではなぜこの「薬価改定」や「診療報酬」が小林化工の不正につながったのか、
医薬品不足の解消は難しいのかを書いていきます。
薬価が下がることにより医療費総額が減り、
患者が薬局でもらう薬の負担額が少なくなります。
一見いいように見えますが、
医薬品メーカーからしたら売上が減ることになります。
薬の値段が下がることになるので当然の結果と言えます。
しかも薬価改定は毎年行われます。
(ちなみに診療報酬や調剤報酬は2年ごとの改定です)
一般市場において価格が下がるということは、
大量生産によるコスト削減による影響だったり、
販売不振などによる在庫過多の対応による影響などがあります。
しかし薬価改定は国が半ば強制的に値段を下げてきます。
どんなに効果の高い医薬品であったとしてもです。
一般市場では人気の高い商品であれば価格は下がることはほぼないですが、
効果の高くよく使われる医薬品でも、
国の指示1つで値段が変わってしまうのです。
製薬メーカーからすれば死活問題です。
通常企業の利益を計算する一番シンプルな考え方は、
利益 = 売上 - 経費
になりますが、
この「売上」が毎年下げられてしまうのです。
利益維持のためには新たな売上を作るか(新薬の開発など)、
経費を下げるかの2点しかありません。
毎年新薬の開発をしたり、
新たな事業を成功させることは不可能な話です。
当然経費を下げざるを得ません。
もちろんこの経費削減は人員の整理だったり、
無理なランニングコスト削減につながったとしても、
何ら不思議の話とはならないわけです。
こうした長年の経費の削減が製薬メーカーの体力を奪い、
疲弊させてしまったと考えるべきと思います。
だからと言って不正をしてよい理由や事故を起こしてよい理由にはなりませんが、
おそらく小林化工の不正も必要な人件費をかけられず、
チェック体制にもままならない労働環境にあったのではないでしょうか。
多少の差はあれどどの製薬メーカーでも起きる可能性はあるのかもしれません。
ジェネリック品の薬価は1錠数円程度の価値しかないものも多く存在します。
完全に薄利多売の商売です。
利益が薄い医薬品に対して今後積極的に生産する理由はかなり乏しいです。
医療を支える使命感で生産しているメーカーも多数あることでしょう。
しかし最終的に利益が見込めない医薬品は生産量の減少、
もしくは生産中止となる医薬品が出る可能性もあるのです。
先発品メーカーに関しても同じことが言えると思います。
確かに新しい薬はしばらくの間は特許権があるため、
ジェネリック品は販売できず独占的に使用されますが、
特許が切れればあっという間にジェネリック品への変更が始まります。
現在日本でのジェネリック品使用率は約80%です。
つまり先発品のシェアは2割ほどになります。
しかも先発品の薬価も毎年下がります。
特に特許の切れた医薬品の生産量増加は見込めないと考えるべきです。
医療費総額を抑えたい国の考えは間違いではありません。
しかし過度の抑制が医薬品メーカーの体力を奪い、
疲弊させていることも事実です。
そして市場に出回る医薬品の供給不足を招いたといっても過言ではないと思います。
また製薬メーカーの弱体化は医薬品開発の弊害につながります。
医薬品開発には莫大な資金と時間がかかります。
今後日本の製薬メーカーから新薬の開発ができないということになれば、
将来的には倒産とはいかないまでもM&Aなどの可能性も出てくるのです。
一方海外の製薬メーカーから見れば、
毎年薬価改定が行われることで、新規市場の候補地から外すことが考えられます。
良い薬だとしても簡単に価格を下げられるなら、
そもそも日本への医薬品申請すら行わない可能性も出てきます。
実際にここ数年海外メーカーからの申請数が減ったとの報道もあります。
これは今でも起きているケースではありますが、
せっかく海外でいい薬が販売されていたとしても、
日本では保険適応がされず、
結果自費診療で受けることになり患者負担が大きくなった、
ということも今後はもっと増えていくかもしれません。
医療費の考え方を改める必要があります。
国の方針は単に医療費を下げることしか見ていない気がしてなりません。
こと医薬品に関しては一律にどの薬価も下げるのではなく、
効能効果の判断と費用対効果の判断を入れるべきではないかと思います。
なお現時点での医薬品流通不足ですが、
通常の流通に回復するまでに数年を要するのではないかといわれています。
暫くは不便な状況が続きそうです。