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日医工の上場廃止に思うこと

「まさかこんな事になるとは・・・」
これが私の率直な感想です。
少なくともコロナ感染拡大前には想像もしていませんでした。

 

すでに報道されている通り、日医工は債務超過に陥ったとことが明らかとなり、
来年3月を予定にして上場廃止になることが発表されました。
報道によるとその債務超過額は356億円とのこと。

私のように薬業界に身を置く方だけでなく、
他業種の方から見てもなかなかの衝撃的なニュースだったのではないかと感じています。

 

日医工は日本におけるGEメーカーにおいて、
リーディングカンパニーといっても過言ではありません。
売上は2022年3月期で約1,800億円と事業規模は非常に大きい企業です。

日本の三大ジェネリック(GE)メーカーと言えば、
沢井製薬、東和薬品、そして日医工になりますが、
3社実績を比べると下記のようになります。
ちなみに集計はコロナ感染拡大前のデータとなります。
(各社HPより抜粋)

改めて数字を見て感じたことは日医工の営業利益の低さ、
収益性が他社と比べだいぶ低い数字となっています。
営業利益率でいえば沢井製薬や東和薬品と比べ3分の1程度です。

そもそもの経営基盤としてあまりいい状況ではなかったと推測できます。

 

医療費予算を抑える政策

少し話題を変えます。
日本は少子高齢化社会であり、
もう何十年も前から医療費予算が膨大になることがわかっていました。

少子高齢化社会の文字通り
「社会を担う現役世代が少なくなり、高齢者が増える」
わけですから、
医療費にかかる予算が増加の一途をたどることは誰が考えても明らかです。

そこで政府は医療費にかかる金額を減らす必要があります。
そこで総額は増加するのは仕方ないとしても、
1人当たりにかかる医療費を抑えるという政策をとり続けてきました。

 

その対策の1つが使用される医薬品の総額を抑えること、
具体的にはGE医薬品の使用推奨薬価改定となります。

 

GE医薬品の推奨は国が自らメディアを通じて広告を行っていますし、
日医工も含め各社ともにCMをバンバン流してきました。
また病院や薬局に対しては使用に対して報酬をつけることにより、
GE医薬品の使用率は増加の一途をたどりました。

その結果2021年時点でのGE使用率は約79%まで増加しました。
(厚生省HPより)

 

また厚生労働省は薬価改定により使用薬剤費の抑制を促してきました。
実際にやってきたことは「単なる医薬品の値段を下げる」ことです。
改定という言葉を見ると、
治療効果や使用量などから適正な価格に修正するみたいな感じを想像しますが、
実際のところは単なる値下げです。

いずれにしてもこれら政策により高齢者が増加する中で、
治療に使用された医薬品の総額(薬剤料)は、
ここ数年間において5.5~5.7兆円とほとんど変わっていません。
ほぼ薬剤料は一定額になっています。

 

しかし全体の医療費は増加傾向にあります。
原因は高齢者数の増加です。
高齢者数が増えれば医療費は上がるのは素直に理解できます。
しかしここ何年も総額薬剤料は増えていません。

 

つまり国は医薬品の価格(薬価)を抑えることで薬剤料をコントロールしているわけです。
ものの見事に薬剤料はほぼ変わっていません。
さすが、日本の役人さんは優秀だなと感心します。

 

薬価改定=単なる医薬品の値下げの弊害

この薬剤料が下がるということは、
治療されている患者にとってはありがたいことです。
医療費が安くなるからです。
しかし製薬メーカーにとっては売上が下がるということになります。

しかも製薬メーカーからすれば薬価が下がったからと言って、
原料費が安くなるわけでもないですし、製造にかかるコストも何ら変わりません。

つまり薬価が下がった分だけ製薬メーカーの利益が少なくなるということです。
ちなみに医薬品卸や病院、薬局への主な影響は、
売上と利益(薬価差)の減少と在庫資産の目減りになります。

 

しかも2018年からはそれまで2年に1回の薬価改定だったのが、
毎年の薬価改定に変更されました。
薬価の値引きサイクルが倍に早まったということになります。

仮にですが5年前に1錠200円の薬価ついていた医薬品が、
年に10%ずつ薬価改定の影響を受けたとすると、
約118円まで下がることになります。
たった5年の間に6割ほどの値段になってしまう計算です。

 

では原料費は5年で6割まで下がるでしょうか。
製造にかかる光熱費や人件費、設備のメンテナンスなどは6割に抑えられるでしょうか。

答えはです。

 

確かにいくらGE品と言えども、発売当初は利益を確保できています。
しかしそれも何年か経てば薬価が引き下げられ、
年々その利益幅も少なくなっていくことは想像に難くありません。

実際に私はGEメーカーの方と打ち合わせをすることがあるのですが、
どのメーカーも原価コストに見合わない、
つまり利益が出るどころか赤字前提で生産している医薬品が、
多くなってきたことを嘆いています。

 

不正の原因は製薬メーカーの体質だけで済ませられる問題なのか

この業界で働いている方なら、
これ以上医薬品の単価が下がり続ければ、
製薬メーカーが耐えられなくなるかもしれないと薄々感じていたと思います。
その不安が現実のものとなり可視化したきっかけは小林化工の不正製造となります。

2021年2月、小林化工は約3か月の営業停止処分を受けます。
ここでは経緯などの詳細は省きますが、
GMP違反があり、かつ出荷した医薬品により多くの健康被害が出たわけですから、
行政処分は至極まともな判断だと言えます。

 

しかしこの影響は他の製薬メーカーにも影響が及びます。
その1社が日医工であり当然のごとく日医工にも行政処分が下されました。

 

これらの処分の原因はどうであれ不正したのは事実ですから、
製薬メーカーは何らかの処罰は受けるべきです。

ですがこの不正に至るまでの工程を全く加味しないというのはちょっと違うと感じます。

株式会社として看板を掲げている以上、
製薬メーカーと言えども株主からはやはり利益を求められます。
売ったところで利益幅が少ない、
ましてや物によっては売った分だけ赤字が膨らむのがわかっているのですから、
苦悩はかなり深い。

他の一般商品と異なり、
薬価は製薬メーカーが決められるわけでのないですから、
なかなか自社努力だけでは収益性は上がらない

もし簡単に利益を生み出す方法を考えるのであれば、
当然行うべき施策は人件費カット、製造コストのカットでしょう。

事実、小林化工は過剰なコストカットにより、
製造のチェック機能が全くなさない状況が生まれてしまいました。

 

そしてさらに今回改めてわかったことは医薬品製造の物流の構造です。

必ずしも自社医薬品を全て自社で製造しているわけではないことを知ってはいましたが、
製造委託先のメーカーがこけてしまうと、
日医工のような大手だとしても流通がストップしてしまうという構造。

脆弱な物流の構造が浮き彫りになりました。

 

結果、市場に出回る医薬品の流通が滞る、
もしくは流通そのものが出来なくなるという異常事態が、
ここ数年続いているというわけです。

 

理念なき政策が医薬品物流を破壊した

ここ最近の傾向として、
製薬メーカーはもちろんのこと医薬品卸もがはっきりと
「このままの薬価制度であれば日本の薬業界は破綻する」
と発言し始めました。

医療費に対する政策を従うばかりではいられない、
もう黙っているばかりではさきがないとの危機感からだと感じます。

ここ何年も日本の医療費に対する政策は、
単に1人当たりの医療費を下げることばかりが先行し、
残念ながらそのターゲットが薬剤料となりました。

理不尽にも薬価を下げ続けることで確かに高齢者数が増加したにも関わらず、
薬剤料を抑えることが出来、
その原資を医科に振り分けることが出来ました。

ではその結果は何か。

少しの障害により医薬品の流通が止まってしまうという、
何とも心細い医薬品提供の体制がここに完成しつつあります。

 

今後の流通改善の見込みはまだ先の話?

あくまで私が聞いた限りの話ではありますが、
いつ流通が戻るかの質問に対して各メーカーの反応は非常に鈍いです。
各社生産ラインの強化しているようですが、
それでも通常時に戻るにはあと2年はかかるとのこと。

小林化工の不祥事より現在約2年が経とうとしていますが、
まだまだ長い道のりになるようです。

そもそも生産したところで赤字を生み出す医薬品を、
製薬メーカーが率先して作りたいかと言えば「NO」でしょう。
当たり前の話です。

 

不祥事を起こしたメーカーが現場を混乱させたのは言うまでもなく、
当然責任は発生するし、ペナルティも当然あるべきだと思います。

しかし原因の一つは行政にあると考えていいでしょう。
単に医療費を下げたい一心で、
医薬品流通の構造を破壊してしまう手助けをしてしまったのは行政でもあります

もちろん日医工は自らトリガーを引いてしまい、
結果自分の首を絞めたにすぎません。
ですが状況が状況なら他のメーカーも、
同じような結果になっていたことも十分あり得る話です。

 

しかも国は薬価改定の見直しをする気配がありません。
来年も実施する方向で動いています。

今でさえ流通構造が破綻しつつあるのに、
この状況をとめ通常時に戻すことを放棄しているような感じです。
いやむしろ円安傾向や世界的なインフレ状況を考えるとさらに悪化するのは明白です。

 

私は薬局に勤めていますが、
この状況に対して薬局は全く持って何の力もありません。
ただこの状況を受け入れるだけです。

今後どう状況が転ぶかはわかりませんが、
この構図を仮に変える方法があるとするなら、
保険適用させる医薬品を絞ることではないかと考えます。

あまり必要性のない医薬品は薬価収載から落とせばいい。
もし治療上どうしても必要な医薬品であるなら、

今のルールでいうと「零売」として薬局で販売すればいい。

当然今の薬価より値上げし自費扱いです。

これなら(国の予算としての)薬剤料が増えることもないし、
何なら無駄な受診も減らすことが出来る。
もちろんこれで万事解決にはなりませんが・・・。

 

でも「零売」はだめかな・・・、
身内の団体がむしろ「零売」に反対していますからね。
この団体はいつまで遠目で眺めているだけなのでしょうか?

今声を出さないでいつ出すのだろうと個人的に感じています。

 

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