blog

数字の話の番外編~「売上10%増=利益10%増」って勘違いしてませんか?

薬局長を8店舗、エリアマネージャーを計10年を経験し、
現在課長職として働く現役薬剤師のta-sanです。
今までの経験を踏まえて薬局長として知っておくべき知識や、
学んでおくと役立つことをツラツラ綴ります。

この内容の対象者として以下のような薬剤師さん向けの内容になります。

・最近初めて薬局長(管理薬剤師)になった方
・薬局長の経験が短い方
・薬局長として働いているが経営数字が苦手な方
・経営数字を学びたいがどう学んでいいか悩んでいる方

 

 

今回は番外編・・・、というと大げさですが、
少し実際の営業数字に近い話をしていきます。

実際に私も会社スタッフに今までのような数字の話、
もしくは社内勉強会などの場で講義をしているのですが、
ある時ふと・・・、
「もしかして勘違いしているのかな?」
という感覚に陥る時がありました。

それは何かというと売上の増減と営業利益の増減の関係についてです。
もう少し具体的に言うと
「売上が10%上がったら、営業利益も同じく10%上がる」
と思っているのではないかと・・・。
今回はこの話をしていきます。

 

目次
売上と営業利益の関係
・売上10%上がった場合の営業利益は・・・
・売上10%下がった場合の営業利益は・・・
・売上が下がった場合は原因を探ること
・なぜ客数が減少する方がより深刻なのか
調剤薬局の場合
ドラッグストアの場合
・客単価の減少による影響はどう考えるべきか
・まとめ

 

売上と営業利益の関係

経験の浅いスタッフが勘違いしているんじゃないかなと思うことで、
「売上が10%上がったら、営業利益も同じく10%上がる」
があります。

これはもちろん逆もしかりで、
「売上が10%さがったら、営業利益も10%下がる」
と思っている方が多いと感じてきました。

確かに文面だけ見るとなんとなくあっていそうな気がします。
つまり売上と営業利益の関係性は比例するのでは・・・
と感じる方多いのではないでしょうか。

もちろん実際の営業成績を見た時に、
「売上先月比110%、営業利益先月比110%」
と偶然も含めちょうど数字が一致するケースも当然あるのですが、
計算上でいえば売上と営業利益の関係性は比例にはなりません。

先に結論を伝えると、
売上が10%上がった場合は、営業利益は10%以上増加しますし、
反対に売上が10%下がった場合は、営業利益は10%以上減少してしまいます。

なぜそうなるのか、実際に計算していきましょう。

 

売上10%上がった場合の営業利益は・・・

設定として連続した月の営業成績を比較するということにします。
「先月の売上と比べて今月の売上は10%増加した」
という設定にします。

売上:先月 500万円 → 今月 550万円
荒利率:35%
人員:薬剤師2名、事務1名
固定費:150万円

先月の営業利益と営業利益率は・・・
500万円 × 35% = 175万円(荒利益)
175万円 - 150万円 = 25万円(営業利益)
25万円 ÷ 500万円 = 5%(営業利益率)

今月の営業利益と営業利益率は・・・
550万円 × 35% = 192.5万円(荒利益)
192.5万円 - 150万円 = 42.5万円(営業利益)
42.5万円 ÷ 550万円 = 7.7%(営業利益率)

売上が10%増加することで、営業利益は25万円から42.5万円に上がり、
営業利益率(営業利益が売上に対して占める割合)は、
5%から7.7%に上がりました。

つまり10%の売上増は営業利益を1.7倍(42.5万円÷25万円)に、
営業利益率は1.54倍(7.7%÷5%)に押し上げたことになります。
なぜでしょうか。

ピンときた方もいると思いますが、
固定費は売上の影響を受けないからです。
固定費は常に一定の金額だからです。

そして売上が上がれば荒利益は比例して増えていきます。
(荒利率は月毎に変化することはあまりありません)
ですから売上が10%上がったとしても固定費は変わりませんから、
その差額(営業利益)はより大きくなっていきます。

 

売上10%下がった場合の営業利益は・・・

では反対に売上が下がったときはどうなるでしょうか。
仮に10%売上が下がった場合を考えてみましょう。

先月
売上:先月 500万円 → 今月 450万円
荒利率:35%
人員:薬剤師2名、事務1名
固定費:150万円

先月の営業利益と営業利益率は・・・
500万円 × 35% = 175万円(荒利益)
175万円 - 150万円 = 25万円(営業利益)
25万円 ÷ 500万円 = 5%(営業利益率)

今月の営業利益と営業利益率は・・・
450万円 × 35% = 157.5万円(荒利益)
157.5万円 - 150万円 = 7.5万円(営業利益)
7.5万円 ÷ 550万円 = 1.4%(営業利益率)

今度は先ほどと全く反対のことが起きます。
売上が10%減少することで営業利益は7.5万円になります。
営業利益率は1.4%まで下がります。

売上の10%減少により営業利益は0.3倍(7.5万円÷25万円)に、
営業利益率は0.28倍(1.4%÷5%)にまで落ち込んでしまうのです。

この理由は何かといえば、
もちろん固定費が影響するからです。

売上が下がれば荒利益も比例して影響しますので、
荒利益と固定費の差額は当然差が小さくなります。
そのため売上の減少率以上に営業利益率が悪化してしまうのです。

 

売上の増減による営業利益への影響のイメージが、
少しでもイメージできたでしょうか。
売上の増減はより営業利益の増減に影響を与えてしまうことを、
理解しておいてください。

売上が10%増えれば営業利益はそれ以上(10%以上)に増える
売上が10%減れば営業利益はそれ以上(10%以上)に減る

 

売上が下がった場合は原因を探ること

実際の経営状況を考えると良い時もあれば悪い時もあります。
数字の良い時は利益が出やすい状況ですから、
「イケイケ、ドンドン」で何も心配することはありませんが、
気になるとすれば、売上が下がっている状態の時です。

数か月に1回程度で下がったくらいではあまり気にする必要もありませんが、
これが2か月続き、3か月続き・・・、
気が付いたらここ数ヶ月あまり数字良くないな・・・、
なんてなろうならおそらくあなたの上司が血相を変えて訪店することでしょう。

考えるべきことはなぜ売上が下がっているのかの要因です。
数字を管理する立場の方であれば、
当然売上減少の原因は何かを考えなくてはなりません。

復習になりますが売上を構成する項目は

売上 = 客数 × 客単価

です。
これはもう理解済みだと思います。
最もシンプルに考えれば、
売上が下がる原因は客数の減少か客単価の減少しかありません。

もし過去の数字と比べて客数の減少により売上が下がっているとするならば、
それなりの危機感をもって対応する必要があります。

言い換えれば客単価の減少による売上の落ち込みよりも、
客数の減少による売上の落ち込みの方がより深刻だと考えてください。

 

なぜ客数が減少する方がより深刻なのか

調剤薬局の場合

調剤薬局はドラッグストアに比べれば単価が高いことを以前説明しました。
またドラッグストアと比べると利用する店舗に対して流動性は低い
(一度利用した薬局を長く利用する頻度が高い)
のが非常に高いのが特徴にもなります。

 

年間でどれほど調剤薬局を利用するかを考える場合は、
年間でどれくらい処方箋が発行されるかを考えることが
一番シンプルだと思います。

処方箋発行枚数

(日本薬剤師会資料より)

 

令和2年はコロナウィルス感染拡大により、
受診控えが増えた影響で処方箋発行数は少し減少しました。

それまでの数年間はだいたい8億枚ほどですので、
日本人の人口(約1.2億人)で割ると約6.7枚となります。
シンプルに考えれば1人当たり6~7枚の処方箋をもらうということであり、
年間で6~7回調剤薬局に通うと考えることが出来ます。

この年間6~7回の調剤薬局の利用頻度は、
圧倒的にドラッグストアより少ないです。
想像すると簡単にわかると思いますが、
皆さんがドラッグストアに買物に行く頻度はどれくらいでしょうか。
ほとんどの人が年7回以上利用頻度ではないでしょうか。

ですので多少の処方箋枚数(客数)が減ったところで、
その後の1年に利用したであろう回数の減少は少ないため、
客数の減少をそこまで気にする必要はないと考えるかもしれません。

しかし視点を変えてみると調剤薬局に対しては、
他の薬局に変える頻度がすくないため(流動性が低いため)、
一度去っていった客が戻ってくる可能性は極端に低いとも考えることが出来ます。

改めて客数を増やそうとしても、
すでに他薬局を利用している客を呼び込むことは非常に難しく、
すぐに客数を増やすということは正直困難と言えます。

ドラッグストアの場合

何もドラッグストアに限らない話ですが実店舗を構えている場合、
どんな商売やビジネスでもお客さんが店に来てくれてナンボの世界です。

どんなにあなたが医薬品の知識を持っていようとも、
店舗に質のよい商品をどれほど取り扱っていても、
どんなに良い接客が出来たとしても、
お客さんが店に来なければ商売が成り立ちません。

客数の減少はそのまま経済規模の縮小や商圏の縮小を意味します。
もちろん店のファンの数(リピーターやロイヤルカスタマーの数)が少なかったとしても、
ビジネスとして成り立たせることは不可能ではありませんが、
この場合は客単価の高いことが経営継続の条件になってしまいます。

例えばですがもし1つ1000万円・2000万円するような、
宝石などを商売としているのであれば、
お抱えの客数が少なくても成り立つかもしれませんが、
ドラッグストアに関しては現状のビジネススタイルはまだまだ薄利多売の世界です。

一般の方が求めるのは安さが非常に強いはずですから、
なかなか単価を上げることは困難です。

ましてやドラッグストアを利用する頻度はかなり高いはずです。
若い世代であれば週に1回程度は、
どこかのドラッグストアを利用しているのではないでしょうか。
それこそ同じ店ではないにせよ年に何十回利用しているはずです。

客数が減少するということは仮に1人の客数だとしても、
その後に来てくれたであろう何十回の購入機会を失っているともいえるのです。

 

あくまで個人的な感想ですが・・・

いわゆる門前薬局でのケースで多いと感じますが、
何らかの理由で患者が他の薬局を利用し始めた場合、
(言い換えればあなたの薬局の利用をやめ他の薬局を利用し始めた場合)
この患者がまた戻ってくる確率は相当低いです。

理由としては調剤薬局の場合、
調剤以外のサービスの提供が乏しい
という面があります。

ここ数年でスーパーやコンビニ内にある調剤薬局が増えてきましたが、
これは調剤以外のサービスを提供できるというメリットがあるためです。

 

客単価の減少による影響はどう考えるべきか

基本的に客単価が原因で売上が減少している場合は、
客数の減少と比べてそこまで深刻になることはないと考えます。

例えば調剤薬局の場合、
客単価に影響する要因は薬局にあるわけではなく、
応需する診療科に起因することがほとんどです。

下記グラフでは薬剤料と技術料の内訳を表していますが、
合算すれば処方箋単価となります。

客(患者)がどこの診療科の処方箋を持ってくるのか、
個人クリニックなのか総合病院なのかでも、
客単価(処方箋単価)は大きく異なってきます。
つまり薬局で調整する要素がほとんどないということです。

 

次にドラッグストアにおいてですが、
そもそも1商品の平均単価を上げることはなかなかできません。
ドラッグストアに求められる大きな要素の1つに安さがあるからです。

 

ドラッグストアの客単価が下がる要因として、
以下の内容が考えられます。

・より単価の安い商品を客が好んで購入している
・店舗が過度の価格競争を行っている
・買物点数が伸びていない

 

しかしこれらは店舗側の対応で対応できるとも言えます。
前提として売り方の工夫や接客が必須となりますが、
安売りをしている商品から少しでも価格帯が高い商品を販売推奨したり、
(もしくは同じ価格帯でも利益率の高い商品へスイッチさせるでもよい)
競合店対策としての過度の価格競争を抑えたり、
買物点数を増やす努力で何とかなるはずです。

もちろんどれも簡単ことではなく時間と手間暇かかりますが、
少なくとも客数自体を増やすよりも努力は少ないはずです。

 

余談です・・・

よく安売りのチラシを入れれば客数が増えるという考えがあります。
確かに一時的には客数は戻りますが、
結果として客を定着させたり長続きするかというとそうはなりません。

来局した客が単に安売りした商品しか購入してくれないケースも多く、
経費をかけてチラシを配ったは良いが、
利益の少ない商品ばかりが売れて、
結果手間をかけた割には利益も少なく、
客も定着しないという結果になることも珍しくないからです。

 

まとめ

今回のまとめです。

まとめ

売上が10%増加した場合、営業利益は10%以上増加をする
逆に売上が10%減少すれば、営業利益は10%以上減少してしまう
売上の減少した要因が客数の減少なら要注意
(普段から客数が減らないような対策を考えること)

 

少しでも参考になったら嬉しいです。

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA