薬局長を8店舗、エリアマネージャーを計10年を経験し、
現在課長職として働く現役薬剤師のta-sanです。
今までの経験を踏まえて薬局長として知っておくべき知識や、
学んでおくと役立つことをツラツラ綴ります。
この内容の対象者として以下のような薬剤師さん向けの内容になります。
・最近初めて薬局長(管理薬剤師)になった方
・薬局長の経験が短い方
・薬局長として働いているが経営数字が苦手な方
・経営数字を学びたいがどう学んでいいか悩んでいる方
またここでいう薬局長とは、
「薬局において運営・管理を任された方」
を指しています。
(コンビニやスーパーで言うと店長になります)
薬剤師向けの話になりますので、
いわゆる調剤薬局をイメージした内容になりますが、
ドラッグストアの物販薬局長の方でも、
理解できるように説明します。
調剤薬局における客単価について考えてみよう
今回は客単価について書いていきます。
客単価も調剤薬局とドラッグストアと、
別々に考えていきます。
客数もそうでしたが、
客単価は客数と比べより違う視点での考えが必要になります。
まずは調剤薬局から考えていきましょう。
客単価とは何かと言われたら、
「1枚当たりの処方箋単価」
だとお伝えしました。
では処方箋単価はいくらくらいになるのでしょうか。
厚生労働省が発表した資料によると、
1枚当たりの単価は9,849円となっています。
この数字は1年間に費やした調剤に関わる全国平均の単価です。
当然薬局ごとによって単価は大きく変わってきます。
実際に皆さんの店舗の数字と比べてみてください。
薬局によってはこの倍の単価だったり、
もしかしたら半分程度の単価しかないかもしれません。
なぜ処方箋単価が薬局間で大きな差になってしまうのか。
その理由ですが・・・、
処方箋単価はより多く応需している病院や診療科の影響を
大きく受けてしまうためです。
次の数字は病院別、診療科別の単価のグラフになります。
このデータも厚生労働省のHPから抜粋しています。
なお「内科」から右の項目は、
個人クリニックや診療所としてみてください。
ここでは眼科と大学病院の処方箋について考えてみます。
眼科の処方箋単価と大学病院の処方箋単価ですが、
それぞれ4,277円と35,540円になりますから、
その差は31,263円となり、約8.3倍の差になります。
売上は客数と客単価の掛算になります。
もし同じ売上を目標に売るのなら、
大学病院の門前薬局に比べて眼科の門前薬局は、
8.3倍以上の処方箋を応需する必要があります。
言い方を変えるとこの差は、
売上に対しての効率性を考えた時、
大学病院の門前薬局のほうが眼科の門前薬局よりも、
8.3倍効率よく売上を稼げるとも言えます。
ちなみにドラックストアにおいてですが、
もちろん店舗ごとで客単価の差はありますが、
ここまで大きな金額の差になることはありません。
(別の機会で説明します)
処方箋単価を構成している項目は何か
処方箋単価をもう少し掘り下げていきます。
一般的な(客)単価の考え方(数式)は、
(客)単価 = 荒利額(利益) + 仕入額(原価)
と考えます。
これを処方箋単価に置き換えると、
処方箋単価 = 技術料(利益) + 薬剤料(原価)
になるわけです。
ご存じの通り調剤薬局のビジネススタイルは、
処方箋で使用する医薬品を卸から仕入れる必要があるので、
調剤でいう薬剤料が原価扱いとなります。
この薬剤料に「調剤・投薬」という付加価値(技術料)を上乗せして、
合計した金額を患者さんから支払っていただくことになります。
この支払っていただいた金額の累計が、
薬局全体の売上になります。
例えば1個70円で仕入れたリンゴを、
利益を30円上乗せした金額で販売すると考えると、
単価=荒利額:30円 + 原価:70円 = 100円
1個当たりの単価は100円になります。
これも足算ですから難しくないですよね。
処方箋単価が高いほうが利益も高くなる?
調剤薬局の売上をあげようと考えた場合、
処方箋単価の低い眼科や耳鼻科の近くに薬局を建てるよりも、
大学病院の近くに建てたほうがより効率的になります。
繰り返しになりますが売上は客数と客単価の掛算で構成されているからです。
では利益のほうはどれくらい差がつくのでしょうか。
下の表を見てください。
各病院・診療科ごとの技術料の平均金額をグラフしています。
あれ?ちょっと不思議に感じませんか。
確かに眼科の技術料(1,477円)よりも、
大学病院の技術料(2,619円)のほうが確かに高いことは間違いありませんが、
その差は1,142円、約1.8倍の差しかついていません。
処方箋単価よりもその差はだいぶ縮まっています。
それどころか大学病院の処方箋単価は、
他の病院や診療所の処方箋単価と比べダントツに高かったですが、
技術料はというと他の診療科と比べてほとんど差が出なくなりました。
つまり技術料においては、
「病院の規模や診療科による影響をそれほど受けない」
ということがわかります。
つまり大学病院の処方箋単価が高い理由は、
技術料にそれほど差はつかないものの、
処方日数が長い処方箋が多いため、
技術料に比べ薬剤料の構成比が高くなったに過ぎないからです。
実際に計算してみましょう。
皆さんも店舗のレセコンで計算してみてください。
ここでの調剤報酬の計算条件は以下の通りとします
調剤基本料1(後発医薬品調剤体制加算などはなし)
処方内容
① ノルバスク5㎎ 1回1錠 朝食後 30日
② ノルバスク5㎎ 1回1錠 朝食後 90日
結果は以下の通りです。
(ノルバスク5mg錠は1錠2点で計算しています)
① 薬剤料:600円 + 技術料:1,850円
② 薬剤料:1,800円 + 技術料:1,850円
当然ですが薬剤料は処方日数が3倍になっていますので、
90日の薬剤料も3倍になっています。
しかし技術料は3倍にはなっていません。
これは調剤報酬において、
技術料は処方日数に比例しない計算になっているからです。
調剤基本料で考えれば処方日数が1日分の処方箋であろうと、
90日分の処方箋であろうと同じ点数(金額)です。
技術料でいえば例えば計量混合加算は、
日数が倍になったからと言って、
倍の点数を算定できるわけではありません。
また外来服薬支援料2(以前でいう一包化加算)は、
確かに日数により比例していきますが、
43日以上になると点数は頭打ちになります。
ここが実はものすごく重要です。
ドラッグストアとは違い調剤薬局の利益(技術料)は、
処方箋単価が上がったとしても、
ある一定の金額で頭打ちになってしまうのです。
つまり技術料だけ見れば、
どこの病院の近くに薬局を建てたとしても、
処方箋単価に影響する技術料の金額差はあまりつきにくいため、
1枚当たりの利益額に大きな差はつかないということになります。
ちなみに各処方箋の技術料の比率(荒利率)を見てみると、
となります。
利益面(荒利率)で考えれば眼科処方(34.5%)のほうが、
大学病院の処方箋に比べ(7.4%)、
4.7倍効率が良いとも考えることができるのです。
売上の効率を考えれば処方箋単価の高い大学病院に軍配が上がりますが、
処方箋1枚当たりに対する利益を稼ぐ力は、
むしろ眼科の処方のほうが高いという見方に変わります。
ここまで来て1点疑問に気が付いた方もいるのではないでしょうか。
おそらくこう思っていませんか。
「薬価差益を考えていないじゃないか・・・」
おっしゃる通りです。
ここまでの話では薬価差益の話をしていません。
この項の目的はあくまで基本的な利益構造について書きたかったので、
あえて薬価差益の話はしませんでした。
もちろん薬局経営において、
薬価差益は非常に重要な収入源になっています。
次回はこの薬価差益について書きたいと思います。
少しでも参考になったら嬉しいです。