調剤薬局やドラッグストアで働く薬剤師が、
最初に役職に就くとしたら「管理薬剤師」ではないでしょうか。
薬剤師としても今後の働き方や経験を積むという意味では、
まずは管理薬剤師を目指すといことは非常に有意義なことと考えています。
今回はこの管理薬剤師の業務について書いていきたいと思います。
業務を説明するうえで実際の業務内容も大事ですが、
ここでは2つの視点から見た管理薬剤師を説明してきます。
2つの視点とは何かというと以下になります。
①行政の立場から求められる管理薬剤師の業務
②経営者の立場から求められる管理薬剤師の業務
簡単ではありますが少しだけ私の経歴を書くと、
薬学部卒で薬剤師免許を取得し就職。
就職後はドラッグストアや調剤薬局につとめ、
ドラッグストアや調剤薬局で管理者(薬局長)として8店舗、
エリアマネージャーとして10年、
そして今は課長職として働いています。
目次
・管理薬剤師の業務とは何か
・行政上求められる業務
①管理薬剤師の条件
②従業員に対する管理・指導
③医薬品等の管理
④適切な使用のための情報提供
⑤その他
・経営者から求められる管理薬剤師の業務
①店舗の営業利益
②店舗社員の教育
③他業種・他社の方との交流
・経営者はあなた自身の成長も見ている
・まとめ
管理薬剤師の業務とは何か
まずここで説明する管理薬剤師の設定を決めておきます。
設定として調剤薬局またはドラッグストアに勤めている管理薬剤師とします。
というのも管理薬剤師として働く職場は薬局以外にもあり、
例えば医薬品卸の医薬品管理者として管理薬剤師が働いていたり、
製薬メーカーなどの工場内で、
製造品の品質管理の責任者として働く管理薬剤師の方もいます。
また病院では管理薬剤師を配置する必要がありません。
法律で管理薬剤師を配置する記載がないためです。
とはいえ院内の薬品管理責任者として、
薬剤部長などの名称で責任者を配置する病院がほとんどです
残念ながら私は病院や卸、製薬メーカーに勤めた経験がないため、
これらの働き方については記載できませんのであしからず・・・。
さて皆さんもご存じの通り、
管理薬剤師の規定は法律により決まっています。
法律(薬機法)に基づき、
医薬品を扱う店舗には必ず1名の管理薬剤師を配置することが求められます。
一般的に管理薬剤師を指すのは、
この法律上必ず配置しなくてはならない、
行政対応として必要な責任者(登録が必要になる責任者)のことを言います。
これが1つめの視点、
「行政の立場から求められる管理薬剤師の業務」
ということになります。
ではもう1つの視点である
「経営者の立場から見た管理薬剤師」
とは何かというと、
簡単に言えば店舗における売上や利益に対する店舗責任者のことを指します。
会社によって異なりますが、
管理薬剤師を店舗トップの立ち位置(store manager) として扱う場合と、
管理薬剤師とは別に数字の管理者を配置する場合があります
(例として管理薬剤師と薬局長を別々に配置する)
このように管理薬剤師と薬局長を別々に配置するのは、
ドラッグストアのように物販と調剤を併設している店舗に多い傾向があります。
別々に配置する理由として、
管理薬剤師には調剤業務やOTC販売といったいわゆる対人業務に時間を割いてもらい、
収益管理などの他の業務負担を極力なくすということがあります。
もしあなたが管理薬剤師を任されることになった場合、
行政の立場から求められる管理薬剤師の業務は必須となります。
ただし経営者の立場から求められる管理薬剤師(店舗内のトップの立ち位置)に関しては、
会社の考え方によって変わってきますのでケースバイケースとなります。
行政上求められる業務
ではここから実際の業務内容を確認していきましょう。
まずは薬機法上、求められる管理薬剤師の業務について説明します。
①管理薬剤師の条件
まず初めに管理薬剤師に必要は条件について説明します。
法律上つい最近まで管理薬剤師の条件について、
特段具体的なものはありませんでした。
しかし令和元年に薬機法の一部が改正され、
管理薬剤師になるには相応の能力や経験が求められることになりました。
以下がその具体的な内容となります。
・薬局における実務経験が少なくとも5年あること
・中立的かつ公共性のある団体の認証を受けた認定制度の認定薬剤師であること
ただしこの条件が必須というわけではありません。
あくまで「推奨される」というレベルの話です。
もし実務経験が5年未満の薬剤師に任せる場合、
・管理薬剤師として責任ある業務を行うことが出来る経験や能力を有した者、
を選ぶ必要があります。
この場合は開設者などがこの基準をどう判断したのか、
説明できる必要があると考えてよいでしょう。
あとこれは条件とは異なるのですが、
もう1点注意しなくてはならない点として、
他の薬局や店舗などの勤務が出来なくなります。
つまり登録された店舗しか勤務することが出来なくなります。
(ただし一部例外あり)
最近は副業として別の薬局で働く方もいますので注意してください。
②従業員に対する管理・指導
ここで指す従業員とは薬剤師だけを指すのではなく、
登録販売者や事務員なども含まれます。
主な業務内容は以下の通りです
・医薬品の専門知識が十分に足りているかの指導や監督
・適切な業務を行う上で法令順守がされているかの指導や監督
・利用者(患者やお客)に対して適切な情報提供が出来ているかの指導や監督
③医薬品等の管理
薬局内で扱う商品の管理についての業務です。
何も処方箋薬だけに適用されるわけではありません。
・店舗内の商品の適切な管理
・医薬品と他の商品とを区別しての管理や貯蔵
・医薬品などが不良品とならないよう適切な管理
(期限切れ、品質保証が出来ない場合は処分などを行うこと)
④適切な使用のための情報提供
情報提供について管理薬剤師自らはもちろんのこと、
他の有資格者に対しても適切に行われるよう監督する必要があります。
・購入者に対して適当な商品であるかの判断
・適正に使用してもらうための情報提供、服薬指導
・購入者の様子を伺いながら使用する医薬品などについて必要な情報提供を行う
・医薬品などでは対応が難しいと判断した場合は受診勧告を行うこと
⑤その他
利用者から情報を取集し、
必要に応じて行政に報告することも求められる業務となります。
また開設者への意見申し立ても必要な業務です。
・医薬品の安全性情報や有効性情報などの収集
・必要な情報が常に収集できる設備や体制の構築
・厚生労働省へ副作用事例の報告
・必要に応じて開設者への意見具申
以上、これらが主に求められる業務となります。
経営者から求められる管理薬剤師の業務
ここからは経営者(社長と考えていいでしょう)から求められる業務について説明します。
もちろん行政上行わなくてはならない業務は必須ですから、
これからさらに上乗せされる業務となります。
繰り返しになりますが会社によって求められる内容は異なりますが、
「管理薬剤師=店舗での立ち位置が一番上」
という前提で説明していきます。
①店舗の営業利益
薬局はホスピタリティの高い職場となりますが、
それでも利益を出さなければ店舗運営の維持が出来なくなります。
店舗が黒字なのか赤字なのかは、
経営者にとって重要なポイントです。
いわゆる営業利益の改善は当然求められる数字となります。
赤字であればどうやって黒字店舗となるようにするのか、
黒自店舗であればさらに利益を上げることはできないのか、
常にチェックされることでしょう。
もちろん利益を出すために不正をしていいというわけではありません。
適正な経営管理の下でどう利益を高めるのかを評価されることになります。
②店舗社員の教育
店舗社員に対しては医薬品などの情報を患者などに対して適切に行うことだけでなく、
組織内で働く社会人としてのスキルアップにつながる教育も求められます。
具体的には数字の管理、接遇・接客の向上(コミュニケーションスキル)、
在庫管理(品質だけではなく金額の管理)、
教育スキル(ティーチング・コーチング)などです。
薬剤師として働く上で必要な知識だけを教えるのではなく、
会社組織として必要不可欠となる人材を育ててほしいというのが経営者の本音です。
もちろん薬剤師以外の社員の教育も求められます。
いわゆるマネジメントスキルは資格所有の有無は全く関係ありませんからね。
③他業種・他社の方との交流
薬局を運営するうえで近隣病院の医師や看護師、
ケアマネジャーや在宅施設関係者などの連携は欠かせません。
これらの多職種との関係性は、
大きな収入源となる処方箋の獲得に大きな影響が出るからです。
しかし管理薬剤師として求められることは、
上記関係医者のみならず医薬品卸や製薬メーカーの担当者など、
直接売上や収益には結びつかない交友関係も求められます。
例えば卸担当者への交流が深くなれば、
もしかしたら優先的に医薬品や商品を融通してくれるかもしれませんし、
何らかの情報を提供してくれるかもしれません。
(ちなみに卸が持っている周辺地域の情報量は半端ないです・・・)
また製薬メーカーの担当者であれば、
常に病院へ訪問したりリモートで情報提供をしていますから、
医師や病院の情報をこっそり教えてくれることもあります。
もしかしたら病院から見た薬局への評価もこぼしているかもしれません。
思わぬ本音を教えてくれるかもしれないのです。
もちろん全ての情報を教えてくれるわけではないですし、
時には眉唾物の情報もありますから、
すべてを鵜呑みにはできません。
情報の選別は必要ですが、
それを差し引いたとしても有益な面が多くあります。
経営者はあなた自身の成長も見ている
管理薬剤師はその薬局の責任者になるわけですから、
仮に店舗を1つの会社組織と考えると、
あなたはその薬局の経営者(=社長のような存在)になったとも言えます。
それまで一薬剤師、一社員として働いていた時とは異なり、
他の社員に指示を出す場面が増え、
自分の行動だけでなく他の社員の行動にも責任が発生し、
厳しい状況時に自分で考え決断する場面が増えます。
店舗のトップは管理薬剤師ですから、
当然社員からの様々な要求・要望が上がります。
不平や不満も上がってくることでしょう。
経営者は疑似的なとは言え「社長」となったあなたに注目します。
様々な問題や難問に対してどう対応するのか、
興味津々であなたの行動を見ています。
あなたにはマネジメントスキルが求められ、
結果1つ1つが会社経営者の耳に届くのです。
ある程度の期間が過ぎれば、
経営者はあなたを管理薬剤師として指名したことが正しかったのかどうかの判断をします。
責任者(疑似的な社長)として素質はあるのかどうか、
出した決断や行動がどう結果に結びついたのか、
さらに先のキャリアアップも任せることが出来る人材なのか、
もしくはその可能性を考えていいのかの品定めも行っています。
あなた自身がどう成長するのかも見られているといっていいでしょう。
まとめ
管理薬剤師としての業務を行政側からの視点と、
経営者側からの視点でお伝えしました。
さらには経営者があなたの成長に対しても注視していることも覚えておいてください。
もしあなたが管理薬剤師の依頼があった場合はぜひ受けてほしいと考えています。
管理薬剤師の業務は非常にやりがいのある仕事ではあります。
しかし薬剤師として医薬品を扱う以上人の生死にかかわる業務ですから、
それなりの責任が問われるのも事実です。
さらに管理薬剤師は店舗責任者となりますから、
一薬剤師として働く以上に責任がのしかかります。
責任が重くなるのは嫌だなと感じる方もいることでしょう。
ですが単に一薬剤師としてほぼ医薬品のみに関わって働くよりも、
医療行政の仕組みや医療業界の仕組み、
地域社会や構図の理解、経営に関する知識など、
薬局以外の世界を知るきっかけにもなりますし、
業務を行いながら学べることができ、知ることが出来ます。
これは非常に貴重な経験です。やらなければ絶対に身につかない経験です。
それともう一つ、あなたが管理薬剤師に会社から選ばれたということは、
あなたがとても優秀な人材だからです。
将来を期待された人材の一人なのです。
私の経験上での話ですが、
管理薬剤師になれそうな人や向いていそうな人、
任せても大丈夫であろう人は意外とそうはいません。
むしろ確実に任せたくない人の方が圧倒的に多いのが現実です。
管理薬剤師は店舗責任者になるわけですから、
誰もが出来るというポジションではないのです。
ぜひ前向きに考えてほしいと思います。