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本当に調剤だけでいいのか?薬剤師が見直すべき働き方と3つの対策~第3回:生き残るための具体的な対策とは~

これまでの記事では「調剤中心でいいのか?」という疑問を出発点に、
OTCや物販、DXによって広がる薬剤師の可能性について見てきました。

しかしどれだけ環境が変わっても、
実際に変わるかどうかは自分がどう動くかにかかっています。

第3回となる今回は医療政策や報酬制度の流れを踏まえた上で薬剤師が、
「生き残るために持つべき視点」と「今日から実践できる小さな一歩」
に分けて具体的に解説していきます。

 

国の医療政策と薬剤師の関係:生き残る薬剤師になるための3つの視点

医療費増加が進む中で求められる薬剤師像

ご存じの通り日本の医療費は年々増加し、
今や財政を圧迫する最大の要因のひとつとなっています。
団塊世代の後期高齢化が進む中、
予防医療やセルフメディケーションの推進は避けて通れない課題です。

こうした背景を受けて薬剤師にも薬を渡すだけではなく、
医療費の適正化に貢献できる存在としての役割が強く求められるようになってきました。

調剤報酬において残薬の確認や重複投薬の防止、
服薬の過剰投与や適正使用の確認に対して加算(フィー)がつけられているのは、
まさにこうした理由からです。
一見すると地味な業務ですが、
積み重ねていくことで大きな医療費削減につながる非常に意義ある取り組みです。

しかし今後はさらに治療内容と実際にかかった医療費のバランスが、
問われるようになってくるのではないでしょうか。
つまり処方内容や診療の在り方に対して、
この医療費は本当に適正だったのか?という視点が強まると考えています。

その一環としてジェネリック医薬品の推奨が進められ、
薬局・薬剤師の働きかけによって使用率は大きく伸びました。
これは大きな成果ですが、
これからは別の切り口から医療費削減に貢献する視点が、
さらに求められると私は感じています。

DX化がもたらす薬剤師の新たな役割

繰り返し述べている通りここ数年、
医療現場にもDX(デジタルトランスフォーメーション)の波が押し寄せています。
電子処方箋やオンライン資格確認の導入、
電子お薬手帳や服薬情報のデータ連携などにより、
薬局業務はますます「データを扱う方向」へとシフトしています。

患者の服薬情報をデータで把握し、
複数の医療機関にまたがる治療の整合性を確認することが、
これまで以上に簡単にできるようになってきました。
患者の治療の見える化により、
今後は正しく薬が使われているかどうかだけでなく、
患者が適正な負担で治療を受けているかという点までも、
可視化されていくと考えられます。

単に薬価の低いジェネリック医薬品を推奨するだけでなく、
「同じ治療結果が得られるなら、Aの薬より安価なBの薬に切り替えてはどうか」
といった提案ができる時代がすぐそこまで来ています。

PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)の導入が進み、
データの一元化が進めば進むほど、
薬剤師はもはや「薬を渡す人」ではいられなくなるのです。
データに基づいたアプローチで患者の治療と向き合い、
薬剤師としての専門性を活かして新たな価値を提供できる存在──
それがこれからの現場で求められる薬剤師の姿です。

 

調剤報酬に縛られないQOL向上につなげる物販対応

これまでの調剤薬局の収益は調剤報酬に大きく依存してきました。
しかし医療費が財政を圧迫する中で、
今後その報酬の算定基準はますます厳しくなることが予想されます。

一方物販(OTC、衛生用品、健康食品など)は薬剤師が自らの判断で提案でき、
患者のQOL(生活の質)向上にも直結する領域です。
これは調剤報酬に頼らずに薬剤師として価値を発揮できる、
数少ない実践の場だと言えるでしょう。

多くの薬剤師が
「この程度の症状で病院に行く必要があるのかな?」
と感じた経験があるのではないでしょうか。
実はこうした病院に行く前の相談役こそ薬局が本来果たすべき役割のひとつです。

また在宅業務においても物販の可能性は広がっています。
患者宅を訪問する中で体温計や熱冷ましの商品、
血圧計などの日常的な健康管理に必要な道具が不足しているケースは少なくありません。

さらに洗剤やティッシュなどの生活必需品が切れている場面に出会ったとき、
「じゃあ、今度持ってきましょうか?」とさりげなく提案することもできます。

こうした小さな一歩でも積み重ねることで確実に信頼が生まれ、
「それならお願いしようかな」と言ってもらえる関係性につながります。

そしてその信頼こそが薬局の価値を高め、
調剤以外の安定した収益源にもなり得るのではと私は考えます。

今日からできる一歩:物販販売を始める3つの「小さな一歩」

一歩踏み込むコミュニケーション力

「眠れていますか?」「お通じはどうですか?」といった一言を加えるだけで、
患者のニーズに気づくきっかけになります。
単に薬の説明だけで終わらせず生活面まで一歩踏み込むことで、
自然と物販提案につながる場面が増えていきます。
高いハードルを自分で作る必要はありません。
「何か売らなきゃ」と意識するのではなく、
「あなたを気にかけていますよ」という姿勢が信頼を生み、
相談される関係の第一歩になるのです。

商品に触れるという行動

商品を知るにはまず自分で使ってみるのが一番です。
香り、サイズ感、使いやすさなど、体験して初めてわかる情報は多いもの。
普段使っているお気に入り商品を紹介するのも立派な提案になります。
薬剤師はつい専門的な知識を優先しがちですが、
実際には「私も使ってるんですよ」という一言のほうが、
安心感を与えることも多いのです。
まずは一つ気になる商品に触れてみましょう。

自分なりの「おすすめ品リスト」を作る

季節や症状ごとに「自分が提案しやすい商品リスト」を持っておくと、
物販のハードルがぐっと下がります。
「この商品なら自信を持って勧められる」
と思えるものをいくつかピックアップしておくとよいでしょう。
「特におすすめできる商品がない」という場合でも、
まずは1点だけでも構いません。
あらかじめ選んでおけば迷わず提案でき接客にも余裕が生まれます。

まとめ

調剤をベースにしたOTCや物販販売の対応

薬剤師の専門性の根幹はやはり調剤と医薬品に関する知識です。
処方箋に基づいた調剤、服薬指導、在宅業務など、
医薬品の適正使用を支えるこの業務は、
今後も薬剤師の中心的な役割であることは変わりません。

しかしその一方で処方薬だけでは対応しきれない患者の悩みやニーズも、
確実に存在しています。
軽度な体調不良、不眠、肌荒れ、疲労感など、
「医療の手前」にある問題に対しては、
OTC医薬品やサプリメント、衛生用品などの提案が効果的です。

調剤をベースにしながらもOTCや物販によって患者の生活全体に関わる姿勢は、
今後ますます重要になるはずです。
前回のブログで述べた通りセルフメディケーションの考え方は、
今のように調剤が主たる業務となる前の薬局の姿そのもの
もう一度薬局の原点に立ち返るときが来たのだと私は考えます。

専門性を活かしての医療費削減に向けた行動

医療費の増加はもはや避けられない社会課題であり、
その抑制において薬剤師が果たす役割は年々重くなっています。
なぜなら薬剤師は「本当にこの薬が必要か?」という視点から、
医療の無駄を直接見直す立場にあるからです。

今迄においても薬歴を振り返れば、
いつの間にか継続されている薬や症状の変化に見合わない処方、
同じ効果を持つ薬の併用など、
気づけば無駄になっている薬に出会うことも少なかったはずです。
ましてやこれから薬局のDX化が進めば進むほど、
これらに適切に介入することができ、
医師などの多職種連携の強化を図ることができれば、
患者の身体的・経済的負担を減らすだけでなく、
社会全体の医療費削減にもつながることでしょう

単に処方どおりに薬を出すのではなく、
その背景を読み取り専門職としてより良い医療のあり方を提案していく姿勢が、
これからの薬剤師には強く求められています。

治療ではない「QOL」につながる提案力

医療のゴールは「治すこと」だけではありません。
「不安を減らす」「生活を楽にする」「心地よく過ごせるようにする」
といった生活の質(QOL)を高める視点も同じくらい重要です。

ここに薬剤師が介入できる場面は数多くあります。
例えば便秘や疲れ、冷えなど、
すぐに病院に行くほどではない不調へのアプローチや、
季節に応じた体調管理、セルフケア商品の提案などは患者の日々の安心に直結します。

特に在宅業務の現場では、
生活空間に入り込むからこそ気づけるニーズも多くあります。
こうした未病対応や生活支援的な提案ができることは、
薬剤師としての価値を広げる大きな武器になります。

調剤報酬に縛られず患者の暮らし全体をサポートする柔軟な視点と行動力──
それこそがこれからの薬剤師に必要な力だと私は考えています。

 

3回にわたってお届けしてきたこのシリーズでは、
「調剤だけでいいのか?」という疑問から始まり、
変化しつつある薬剤師の役割、
そして生き残るための具体的な行動について掘り下げてきました。

今、薬剤師には調剤業務を中心としながらも、
調剤報酬の枠を超えた価値が求められています。

専門性に裏打ちされた提案力、生活に寄り添う視点、
調剤報酬に依存しない柔軟な行動力──、
これらはすべてこれからの医療に必要とされる力です。

変化のスピードに不安を感じることもあるかもしれませんが、
小さな一歩の積み重ねがやがて大きな信頼につながり、
薬局の存在価値を高めていきます。

単に「生き残る薬剤師」ではなく、「選ばれる薬剤師」として。

これからも私たち自身の働き方を見つめ直しながら、
患者にとって本当に必要とされる存在を目指していきましょう。

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