「調剤だけで本当に大丈夫なのか?」
前回はそんな問題意識のもと、
薬剤師業務の偏りやこれからの不安について掘り下げました。
では薬剤師としてのキャリアを広げるには何が必要なのでしょうか。
ここで注目したいのが「OTC(一般用医薬品)」や「健康食品」はもちろんのこと、
在宅対応を行う薬局では衛生用品や生活用品まで扱うケースがあります。
さらにDX化によって変わりつつある薬局の仕組みが、
薬剤師に新たな役割と価値をもたらそうとしています。
これらは一見“調剤とは関係ない”と思われがちですが、
調剤をベースにしたうえで取り組むべき内容であり、
これからの薬剤師にとって重要な選択肢です。
処方箋がなくても始められる健康相談や患者の生活に寄り添う商品提案。
そしてマイナ保険証や電子処方箋といった制度・ツールの活用は、
「調剤だけに頼らない薬剤師像」への第一歩にもなります。
今回はそんな物販とDXに焦点を当てながら、
薬剤師の新しいキャリアの可能性について考えていきます
なぜ今“OTC”や物販に注目すべきなのか:薬剤師が押さえるべき3つの理由
セルフメディケーションを支える存在として
近年「セルフメディケーション(自己治療・自己管理)」という考え方が、
国や医療業界全体で強く推進されています。
その背景には慢性的な医療費の増加や、
地方における医師不足といった社会的課題があります。
つまり薬剤師が病院に行く前の相談役として、
地域の健康を支える役割がいま強く求められているのです。
OTC医薬品や健康食品の販売・相談対応は、
まさにこのセルフメディケーションの実践そのもの。
「ちょっとした体調不良を自分でケアしたい」
「病院に行くほどではないけれど、何かできることはないか」
と考える患者に対して薬剤師は正しい判断と安心感を提供できる存在です。
さらに調剤業務だけではなかなか築けない信頼関係の構築にもつながる点は見逃せません。
ここで少し立ち止まって考えてみましょう。
セルフメディケーションの考え方は
今のように調剤が主たる業務となる前の薬局の姿そのものではないでしょうか。
もともと薬局は地域の人々にとって「最初に健康を相談する場所」*だったはずです。
今私たち薬剤師に求められているのは、
新たな役割というよりも薬局の原点に立ち返ることだと私は考えます。
健康相談や商品提案も薬剤師の仕事
薬剤師の仕事を改めて考えてみましょう。
調剤以外にももっと多様な役割を担える存在にあります。
中でもOTC医薬品や健康食品や衛生用品などの商品提案、
患者からのちょっとした健康相談に応じることは、
薬剤師だからこそできる重要な業務です。
例えば
「最近眠れない」
「肌が荒れて困っている」
「疲れが取れない」
といった声に対して生活習慣や持病、服用中の薬を踏まえたうえで、
適切な商品や対応策を提案する。
これはまさに医師や看護師にはできない、
薬剤師ならではの専門性と信頼感を活かした仕事です。
また物販に関わることを躊躇する理由に、
物を売る=売りつける
といったマイナスの印象を持たれていることがあります。
しかし患者が抱える悩みに一歩踏み込んで耳を傾け、
必要な薬や商品を必要な分だけ購入してもらうことが、
はたして物を売りつける行為となるでしょうか。
調剤以外の対応をすることで、
「この薬剤師さんにまた相談してみたい」と思ってもらえるきっかけになりませんか。
物販や健康相談の対応は単に「物を売る」行動ではありません。
それはリピーターや信頼関係の形成に直結する薬剤師の価値ある仕事なのです。
治療内容と医療費を考えると薬剤師のキャリアの幅が広がる
日本の医療制度は国民皆保険によって誰でも平等に医療を受けられる反面、
医療費の増加が深刻な課題となっています。
とくに高齢化が進む現在、
慢性疾患や医療機関の受診増により国家予算に占める医療費の割合は年々拡大しています。
こうした背景から国は、
「重症化を防ぐ」
「できるだけ病院に行かせない」
といった方向に医療政策を転換しています。
ここで求められるのが未病や軽症の段階で適切に対応できる薬剤師の役割です。
例えば軽いかぜ症状でOTC医薬品を提案できれば、
不要な受診を避けられ医療費の削減にもつながります。
生活習慣病に対してもサプリメントや生活習慣の改善提案など、
治療一辺倒ではない支援ができるのは薬剤師ならではの強みです。
さらに視点を広げると近年の調剤報酬改定によって、
薬局の処方箋1枚あたりの収益(フィー)は確実に下がってきています。
同じ処方箋枚数でも売上は減り続け、
薬局経営や薬剤師の待遇に影響を与えるようになってきました。
自分の生活を守るためにも、
薬剤師として調剤以外の収益源を見つけることは現実的な課題といえるでしょう。
OTCや健康食品など物販や相談対応のスキルを身につけることは、
単に業務の幅を広げるだけでなく、
薬剤師としてのキャリアを持続し続ける選択肢になるはずです。
働き方を見直すヒント:今までの調剤の概念だけにとらわれないキャリア形成の3つの方法

OTC・物販との接点を持つ第一歩とは
調剤業務を中心に働いてきた薬剤師にとって、
物販に関わることに抵抗を感じる方は少なくありません。
どこか難しく専門外のように感じて、
必要以上にハードルを上げてしまっているケースも多いのではないでしょうか。
だからこそまずはもっとシンプルに気軽に考えてみませんか?
まずは薬局内のOTC棚を見てみましょう。
CMなどで馴染みのある商品も並んでいるはずです。
そして箱の裏の成分表示を見てみてください。
実は調剤業務で見慣れた成分が多く含まれていることに気づくはずです。
つまり日々の業務で処方薬の効能や作用、副作用を説明している薬剤師なら、
・この商品は何に効くのか
・どんな使い方が適切か
そういった判断はすでにできるスキルを持っているのです。
商品説明はある意味では調剤における服薬指導と変わりません。
OTC販売は決して特別な知識が求められる仕事ではなく、
むしろ今のスキルの延長線上にある自然な業務なのです。
最初の一歩とは自分自身が勝手に上げてしまったハードルを下げること。
それがOTCや物販と関わるための本当に最初の第一歩だと私は思います。
医療費削減につながる?処方薬と物販の使い分け
薬剤師がOTCや物販に関わることには、
医療費の削減や医療資源の適正利用という側面もあります。
実際に売場に立っていると、
「病院に行くほどではないけれど、何か使える薬はないか」
と相談に来る方が少なくありません。
もちろん症状によっては受診を勧める必要がありますが、
よく話を聞くとOTC医薬品や物販商品で十分対応できるケースも多くあります。
中にはすでに処方薬で対応可能なケースや、
薬の服用自体が不要と思われる相談もありました。
私自身そうしたケースを何度も経験しています。
こうした場面で薬剤師が適切に対応し必要な商品や選択肢を提案できれば、
不要な受診や処方薬の服用を防ぐことができます。
これは患者自身の医療費負担を軽減するだけでなく、
結果的に国全体の医療費抑制にも貢献するのです。
また薬局・薬剤師の強みは病院とは異なる柔軟な対応力にあります。
医薬品にとどまらずサプリメントや食品、
衛生用品まで幅広く扱えるため、
患者の生活背景を踏まえた提案が可能です。
対話を重ねながらその人に合った健康サポートができる――
これこそが薬剤師が調剤以外のフィールドで発揮できる力ではないでしょうか。
DXを薬局現場で活かす:マイナ保険証による新たな薬剤師の役割
近年薬局にもDX(デジタルトランスフォーメーション)の波が、
本格的に押し寄せています。
マイナンバーカードの保険証利用や電子処方箋の導入など、
システム面の変化が着実に進んでいることを現場で実感している方も多いことでしょう。
こうした変化は単なる事務作業の効率化にとどまりません。
むしろ薬剤師の役割を、
「処方箋に従って薬を渡す人」から、
「患者に合わせた提案ができる専門職」へと進化させる可能性を秘めています。
例えば従来患者がどの病院にかかりどんな薬を飲んでいるかは、
お薬手帳や聞き取りに頼るしかなく十分に把握するのは困難でした。
しかしマイナ保険証を使えば、
服薬歴や特定健診のデータなどを正確に確認でき、
薬剤師がより精度の高い服薬指導や健康提案を行えるようになります。
OTCやサプリメントとの飲み合わせの確認、
副作用の予防や過剰投与の回避にもつながります。
さらに電子処方箋やオンライン服薬指導の普及により、
薬剤師と患者の関係は“対面・時間・距離”の制限を超えて広がりつつあります。
在宅患者や遠隔地の患者とも継続的に関われるようになり、
薬を渡すだけで終わらない支援が可能になります。
かつては目の前の処方箋に閉じた業務が中心だった薬局業務ですが、
いまや薬剤師の活躍の場は確実に広がっています。
すでに調剤にとらわれない環境が整いつつある中で、
これから必要なのは薬剤師自身がその可能性に気づき、
専門性を活かしていく意識ではないでしょうか。
まとめ
今回はOTCや物販の重要性、
そしてDX化によって広がる薬剤師の役割について考えてきました。
働く環境は薬剤師の専門性を活かせる方向へと確実に変わってきています。
これまで積み重ねてきた知識や経験を、
より多様なかたちで社会に活かしていけるチャンスが今広がっています。
次回はそうした変化を踏まえて、
薬剤師が今できる具体的な対策について掘り下げていきます。
ぜひ第3回もご覧ください。
次の記事はこちら
第3回:生き残るための具体的な対策とは~第3回:本当に調剤だけでいいのか?薬剤師が見直すべき働き方と3つの対策~