薬局長を8店舗、エリアマネージャーを計10年を経験し、
現在課長職として働く現役薬剤師のta-sanです。
今までの経験を踏まえて薬局長として知っておくべき知識や、
学んでおくと役立つことをツラツラ綴ります。
この内容の対象者として以下のような薬剤師さん向けの内容になります。
・最近初めて薬局長(管理薬剤師)になった方
・薬局長の経験が短い方
・薬局長として働いているが経営数字が苦手な方
・経営数字を学びたいがどう学んでいいか悩んでいる方
またここでいう薬局長とは、
「薬局において運営・管理を任された方」
を指しています。
(コンビニやスーパーで言うと店長になります)
薬剤師向けの話になりますので、
いわゆる調剤薬局をイメージした内容になりますが、
ドラッグストアの物販薬局長の方でも、
理解できるように説明します。
薬価差益について考えてみる
今回は薬価差益について書いていきます。
まずは前回のおさらいです。
調剤薬局における客単価(処方箋単価)を構成する式は、
客単価 = 技術料(利益) + 薬剤料(原価)
となります。
薬剤料は原価扱いになりますので、
技術料=利益(売上総利益)
の構図となります。
薬局が応需する病院や診療科により
客単価の差が全く異なる話をしましたが、
客単価(1枚当たりの処方箋単価)に対して、
この技術料の金額はほぼ同じ金額になることも
お伝えしました。
さて、ここからが今日のテーマとなります。
そもそもとして薬価差益とは何ぞや?
という話になりますよね。
前回薬剤料は原価扱いになるとお伝えしましたが、
実際の医薬品の仕入れる金額は
薬価=仕入額
になるわけではありません。
例えとしてA医薬品の1錠の薬価が100円だとします。
薬局はA医薬品を卸から仕入れます。
卸によって値引き率が異なりますが、
基本的には薬価より安い金額で取引されるのです。
B卸から仕入れた場合は1錠95円で取引されるため、
薬価の100円との価格差の5円が薬価差益となります。
もちろんこれは薬局にとっての利益として処理することができます。
C卸であれば1錠90円で仕入れることができるため、
C卸と取引すれば10円の薬価差益が生まれます。
当然発注先を選ぶならC卸になりますね。
薬価差益も薬局にとって大きな利益
では薬価差益を含めた利益はどう変動するのでしょうか。
繰り返しになりますが、技術料のみで考えた場合、
処方箋1枚当たりの技術料の金額は、
応需する病院や診療科の違いにあまり関係がないと伝えました。
しかし処方箋単価は応需する病院により、
大きな金額の差が生じます。
この金額の差が生まれる要因は薬剤料の影響が大きいためです。
では眼科処方箋と大学病院の処方箋で比較してみましょう。
上のグラフの通り、各薬剤料の金額は次のようになります。
大学病院 : 薬剤料 32,912円
眼科処方 : 薬剤料 2,800円
仮に卸から薬価差益10%で取引したとしましょう。
それぞれの仕入れ額は次のようになりますから・・・、
大学病院 : 薬価差益 32,912円 × 10% = 3,291円
売上総利益 2,619円(技術料) + 3,291円 = 5,910円
眼科処方 : 薬価差益 2,800円 × 10% = 280円
売上総利益 1,477円(技術料) + 280円 = 1,757円
技術料のみの金額差 : 2,619円 - 1,477円 = 1,142円
薬価差益を含めると : 5,910円 - 1,757円 = 4,153円
もし薬価差益を考えず技術料のみを利益と考えると、
大学病院と眼科処方の金額差は1,142円ですが、
薬価差益を考慮した場合の差額は4,153円となり、
1枚当たりの利益額の差は3,011円となります。
こうやって考えるとだいぶ印象が変わりませんか?
薬価差益があるかないかで利益の幅は変わっています。
ここでの比較の場合ですが、
処方箋1枚当たり薬剤料の高い大学病院の処方箋は、
眼科処方と比べ約3,000円以上もの利益を稼ぐことができます。
この金額は月の応需枚数の分だけ掛算で増えていくことになります。
月に1000枚(1000人の客数)を応需していれば約300万円、
2000枚なら約600万円とその差はどんどん大きくなります。
単に技術料だけを考えるのであれば、
基本的にはどの処方箋の技術料の差は少ないですから、
近くにある病院の診療科や規模などを、
あまり考慮する必要がないとも考えることができますが、
実際には薬価差益も重要な利益の柱となります。
そう考えると薬剤料の少ない眼科処方や小児科処方は、
薬価差益を生む金額が少ないため、
「処方箋単価の高い病院の処方箋応需を目指したほうがよい」
ということになります。
調剤薬局ならではの税金の話~消費税問題~
調剤薬局の利益構造は技術料+薬価差益の足し算で決まります。
技術料算定を増やし、卸からの仕入れ額を低くすれば、
薬価差益となり利益の上乗せができます。
しかしここである1つの問題を考える必要があります。
それは消費税です。
「あれ?医療費って非課税扱いでしょ」
「消費税は関係ないよね?
もちろんおっしゃる通りです。
調剤に関わる費用については非課税扱いです。
ですので患者さんからは消費税を頂くことはありません。
もちろん病院でかかる医療費も同じです。
ではなぜ消費税が問題になるのか・・・。
まずそもそも消費税の仕組みを考える必要があります。
消費税を支払う対象となるケースは何かというと、
「物を購入した、もしくはサービスを受けた最終消費者が支払う」
というルールがあります。
まず一般的な構図で考えてみましょう
一般的な商品では下記の構図になります
薬局は卸から商品を仕入れます。
この購入には薬局から卸へ消費税を支払います。
次に卸から仕入れた商品を販売する際には、
購入者(お客さん)から消費税が払われます
卸から仕入れた商品(60円)には6円の消費税を払いますが、
商品を100円に設定して販売した場合は、
お客さんから10円の消費税を頂くというわけです。
ですから薬局視点に立つと、
消費税の持ち出しは全くないことになります。
ちなみに薬局は受け取った消費税と、
支払った消費税の差額分を納税することになります。
次に調剤(非課税扱い)の場合ではどうでしょうか。
卸からの医薬品の購入は先ほどと同じです。
医薬品の購入には当然薬局は卸に消費税を払います。
しかし次が違います。
処方箋に関しては非課税扱いです。
ということは患者さんから消費税をもらえないというわけです。
さらにもう一歩先のことを考えると、
調剤に関わる医薬品については、
薬局が最終消費者となってしまうのです。
仮にですがもし薬価の金額で卸から医薬品を仕入れているとなると、
薬局は消費税の支払いが必要になりますので、
実質薬価より高い仕入れになってしまいます。
つまりざっくりとした計算になりますが、
医薬品の購入値入が10%に満たない場合、
消費税10%の分とで薬価差益が相殺され、
薬価差益の上乗せは全くされないという結果になるのです
ちなみにですが薬価自体は消費税が含まれた金額となっています。
ですので厳密には薬に関しては消費税をもらっているとも言えます。
実際に薬局にある伝票を見てください。
値引きが薬価からされているのであれば、
消費税負担を考える必要があります。
(つまり薬価差益が相殺されてしまいます)
本体価格部分からの値引きであれば、
消費税を考える必要が無くなります。
調剤薬局において薬価差益の重要性が理解頂けたでしょうか。
今から20年30年前と比べ、
薬価差益額は減少傾向にあるのは間違いありません。
しかし現時点においても薬価差益の有無により、
薬局経営に影響を与えていることも事実です。
店舗に勤めている方であれば、
卸との交渉ができるわけではなりませんので、
数字の改善を図ることはできませんが、
それでも利益構造を理解することはとても重要だと考えます。
理想は技術料だけで経営が成り立つのが理想なのでしょうけどね・・・。
少しでも参考になったら嬉しいです。